健康太一ミニコラム:「呼吸」について
今回は、呼吸についての話です。健康づくり、養生のためにも、無理のない、深くてゆったりした呼吸ができるようになりましょう
35 「呼吸」について
太極拳を深く、ゆったりした呼吸でする…
最近、ニコニコ太一気功サークルで、メンバーの仲間と太極拳をしていたときのこと、呼吸が話題に上りました。というのも、いま勉強中の十三式太極拳の動作がひとまずわかったところで、今度はその動作を、できるだけゆったりと呼吸を深くして伸びやかに動いていくようにしましょう、と言って、みんなで取り組んでいた最中だったからです。
実は、呼吸については、既に、このホームページの「気功って、何?(続)」のなかでも、要点を簡単に触れています。
また、サークルの別のコースの活動中にも、白板を使って、呼吸のしくみについて図示し、基本的なところを説明したこともありました。でも、それももう何年も前のこと。新しいメンバーには、特に話をしていませんでしたから、いい機会なので少し話をしました。
ただ、呼吸というのは結構、奥が深く、内容も多面的ですから、時間的な制約があるなかでは、あまりきちんとは話をしきれませんでした。そこで、ここに改めて、知っておいたほうがいいのではと思われることや、気づいたことなどを、わかる範囲で、まとめてみようと思いました。
呼吸の基本的なメカニズム
まず、呼吸ってどうしてしているのか、ということなのですが、かつての自分もそうであったように(-_-;)、あまりにも身近すぎて、その基本的なメカニズムについて、案外見過ごされているところがあるように感じます。
あまりにも身近というのは、オギャーと生まれてこのかた、人は呼吸で悩む、ということはまずあまりなかったと思います。吐いて、吸って、吐いて、吸って、人はごく自然にそうしてきたはずです。それは、呼吸は基本的に自律神経の支配するところであり、いちいち、さあ、これから息を吸おうとか、息を吐こうとか意識してことさらに思わなくても、生体のほうで勝手にやってくれているからです。
では、その自然にやれている呼吸の基本的なメカニズムとはどういうものなのか、というと、それは肺が膨らんだり、しぼんだりすることで、息が入ったり出たりするわけです。
以上は非常に常識的でよく知られていることですが、案外、見過ごされているのでは、と思われるのは、この膨らんだりしぼんだりするのは、肺そのものの力ではない、ということです。
大気との圧力差で息が入ったり、出たりする
じゃあ、何がそうさせているのかというと、基本的に、大気と肺を包む胸郭との間の圧力の差がそうさせているのです。手短にいうと、胸郭が広がり肺が伸ばされると大気との間で圧力差が生まれ、空気が体に入ってきます(吸気)。胸郭が縮小すると、内圧が高くなって、息が外に出ていくことになります(呼気)。
そして、この胸郭の拡大縮小には、肋間筋などの肋骨に付着する筋肉や腹横筋、多裂筋といった筋肉、横隔膜や骨盤底筋、さらには斜角筋や胸鎖乳突筋といった様々な筋肉たち、もっと言えば、それに連なる筋膜も関係してきます。こうした筋肉・筋膜が協調して働くことで(もちろん延髄にある呼吸中枢や脳の働きも当然ありますが)、私たちはつつがなく、呼吸をし、生命の大元を養っている、ということになります。
呼吸の質が低下すると…
逆にいうと、こうした呼吸に関係する種々の筋肉・筋膜がきちんと働いてくれないと、私たちの呼吸の質は低下せざるをえません。たとえば、猫背などの姿勢の悪さは関連する筋肉・筋膜のアンバランスを生み、胸郭を慢性的に圧迫することにつながりかねませんし、背骨や骨盤が同様に歪んでいると、それは横隔膜や骨盤底筋といった主要な呼吸筋・筋膜にもよくない影響を及ぼすことになってしまいます。
こうして呼吸の質が低下すると、新鮮な酸素が全身の細胞に十分に届けられませんから、体の各機能もその働きが衰えがちになりますし、疲れやすくもなり、免疫力も下がって、病気にもかかりやすくなってしまいます。
いま、私たちのニコニコ太一気功サークルでは、まず「やわらか気功」で、手足を上げたり、下ろしたり、回したり、胸を開いたり閉じたり、ゆすったり、体幹を使って重心を移動したりと、体全体を多種多様に伸ばし、動かして、それこそ頭の先から胸郭、骨盤、下半身、足先まで、簡単な動作を通じて、解きほぐし整えるようにしていますが、それは、そうすることで呼吸を楽に、深くして、体の諸機能が本来もっている働きを無理なく発揮できるようにするという意味でも、必要不可欠と考えるからです。
息を吸うとき、横隔膜は上がるのか、下がるのか?
ところで、先に、呼吸は基本的に自律神経の支配するところであり、吸ったり、吐いたりは体が勝手に行なうといいましたが、呼吸の面白いというか、たいへん重要なところは、不随意運動でありながら、意識でコントロールすることが可能である、ということです。
ちなみに、呼吸といえばよく話にでてくるのが腹式呼吸。この腹式呼吸は、意識的に横隔膜を通常レベルよりもさらにしっかり働かせて、呼吸を深くしようとするものといえましょう。
そこで、これに関連して質問です!
息を吸うとき、横隔膜は上がるでしょうか、それとも下がるでしょうか?
こんな質問をすると、結構、ハテナ? と、頭を傾げる人が少なくありません。自分の体の中のことにもかかわらず、案外わからないものです。これも無意識下で行なっていて、横隔膜がどんな動きをしているかなんて、普段、思いを巡らせることもないからでしょう。
でも、これは、腹式呼吸を上手にするためには、とても大切なポイントだと思います。
さて、その回答ですが、腹式呼吸って、息を吸うとき、お腹が膨らむんですよね、ということは、お腹が膨らむ分、横隔膜も上がるんじゃないの、というふうに思った人は、当然、上がる、と答えます。
でも、残念ながら、これは×。腹式呼吸は、「お腹を膨らませること」だと思っている人に、これはどうやら多いアヤマチのようです。
お腹を膨らませる、という意識のかけ方をしない
先にも述べたように、呼吸というのは、胸郭が広がることで息が入り、狭まることで息が出ていきます。横隔膜が下がる(自律神経下の交感神経が働いて、筋肉が収縮する)というのは、胸郭を広げることになりますから、吸気につながります。反対に、横隔膜が上がる(自律神経下の副交感神経が働いて、筋肉が弛緩する)と、胸郭が狭まり、呼気につながります。
したがって、この場合、お腹が膨らむというのは、「横隔膜が下がった結果」として、お腹の内容物が前に押し出されて膨らむわけです。上がる、という答えは、その辺の原因と結果を取り違えていることからくる勘違いといえましょう。お腹が膨らむから、横隔膜が上がる、というわけではないのです。
ですから、腹式呼吸をする際は、「お腹を膨らませる」という意識のかけ方ではなく、横隔膜を下げるんだ、という点に意識をおくべきだと思います。そこをしっかりやると、呼吸の流入量もより多くなり、呼吸が深くなることが期待できるわけです。
順腹式、逆腹式、いいのはどっち?
ところで、この、息を吸うときにお腹が膨れ、吐くときに凹む呼吸のしかたは、順腹式呼吸といわれるものです。腹式呼吸には、その逆の、息を吸うときにお腹が凹み、吐くときにお腹が膨れる(弛む)逆腹式呼吸というやり方もあります。
そういうと、じゃあ、どちらがいいんですか? と聞かれたりしますが、そんなときは、たいてい、どちらもいいですね、どちらもできるようになるといいと思います、と答えるようにしています。
なにか曖昧で無責任な受け答えのようですが、そうではなく、要は、息を吸うということでは、横隔膜が下がればいいのであって、そこさえ明確であれば、あとは腹圧のかけ方の差で、いろいろ変化する環境のなかで、あるときはお腹を膨らませたり、あるときはお腹を凹ませたりすればいい、と思っているのですが、どうでしょうか。個人的には、どういう状況下でどうか、ということまではまだ整理できておらず明言できないのですが、そのときどきで臨機応変に膨らませたり、締めつけたりしているように感じています。
腹式呼吸で骨盤底筋はどうなる?
ただ、骨盤底筋との関係でいえば、逆腹式呼吸のほうがいいのかな、と思っています。
以前、逆腹式呼吸ができます、という方がいらっしゃったので、その人に、逆腹式呼吸で息を吸ったときに、骨盤底筋は上がりますか、どうですか、と尋ねてみたことがありました。すると、えっ、と一瞬言葉に詰まり、その場で実際に逆腹式で何度かやってみて確かめようとされていましたが、骨盤底筋というのは、これまた自分の体の中の出来事にもかかわらず、案外意識に上ってきませんから、???と、答えるのに躊躇されていました。
かく言う筆者も、最初は、この点どうなんだろうと、自分自身の体に問いかけてみたり、上記のように人に聞いてみたり、文献等にあたってもみたのですが、結局、判然としませんでした。
でも、今は、体感的に、息を吸うとき骨盤底筋は上がる(締まる)、と思っています。ただ、これには条件があって、それは、息を吸うときにお腹を締めるとともに、お尻のえくぼ(中殿筋)や肛門をキュッと締めつけ、骨盤自体を圧縮することです。すると、その分腹腔も小さくなって、息の流入量も増えるでしょうし、お腹も絞り込まれますから、お腹の代謝もよくなり、出っ腹の改善予防につながるでしょう。また、骨盤底筋も締まりますから、内臓下垂や尿漏れなどの改善にも役立つことでしょう。
そこのところをしっかりさせておかないと、お腹を締めたのはいいが、締めた圧力が下部(足方)にいくと、逆の現象(内臓下垂や尿漏れなど)を助長し、体にとってはよくないことが起きる可能性もあるのでは、と心配します。とくに順腹式の場合は、腹圧がお腹を前に膨らませるように働けばいいのですが、なんらかの理由で前にいかず下に圧がかかるようなことがあればどうなのかと、やはり心配です。
胸式呼吸はどうなのか
また、胸式呼吸との関連性でも、逆腹式のほうが、より胸郭を広げやすく、その分しっかり息が入るように感じています。
胸式呼吸については、たまに、腹式呼吸が健康にいい、と聞きつけて、とたんに胸式呼吸はダメなんだ、と性急に思い込む人もいるようですが、そんなことはないと思います。
要は、これも、胸郭を広げることで吸気がしっかりと行なわれるということが大切なことであり、その点がはっきりしていれば、より深く吸うためには効果的な方法だと思っています。空気がしっかり入るということは、酸素の流入量がそれだけ増え、それを体内に隈なく巡らせることができれば、頭もクリアになるでしょうし、代謝をアップすることも期待できます。
事実、ヨガによく似たエクササイズとして知られるピラティスでは、胸式呼吸を重視しています。その理由として、エクササイズを正しく行なうには、コア(体幹)を安定させ、体を保護することが大切である、との考え方があるようです。ピラティスがよく体幹を鍛えるエクササイズとして注目されているのも、そうしたことに依っているのでしょう。
この体幹を安定させるというのは、逆腹式呼吸についても同様だと感じているのですが、いずれにしても呼吸法としてこれらを併用すれば、その効果もいっそう高まるように個人的には思うのです。
でも、胸式呼吸といい、順腹式、逆腹式呼吸といっても、繰り返しになりますが、根本的なところは、体を(実は心も)柔らかくしなやかで、全身が協調して働けるようにしていくことが肝心なのだと思っています。というか、呼吸というのは、直感的には、心身の全体性のなかで現れるものであって、変に頭や理屈であれこれ操作するものではない、とも個人的には思うのですが、どうでしょうか……。
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あれこれ思いつくまま、基本的なことやら勘違いしやすいと思われる点を中心に書いてきましたが、これだけで随分長くなってしまいました。当初は、太極拳と呼吸についても、自分なりに感じていることをできれば書けるといいなとも思っていたのですが、それはまた次の機会に譲り、今回は、とりあえずここまでとします。(⌒-⌒)ニコニコ
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13 猫背を癒す簡単な方法
10 気功的平衡ということ
06 体幹と末梢運動について
05 姿勢美人と中心力
03 静止して動く!
02 “脱力”のちょいヒント