健康太一ミニコラム:「呼吸」について(続)
前回に続き、呼吸の話です。いつも心が落ち着き、穏やかで、健康、元気でいるためにも、深くゆったりした呼吸ができるようになりましょう
36 「呼吸」について(続)
前回、呼吸について、知っておきたい基本的なメカニズムや勘違いしやすい点を中心に述べました。今回は、そのときにほとんど触れられなかった気功や太極拳の呼吸について、感じたところをもう少し述べておきたいと思います。
深い呼吸をするのが苦手……
太極拳を(気功もそうですが)、呼吸をできるだけ深く、ゆったりとして、伸びやかに大らかに動くようにしましょう、と言って動作してもらうと、途端に力んで呼吸される方がいらっしゃいます。ハ~っ、とか、ス~っ、とか周りに聞こえるほどに……。
でも、これではあまりに頑張り過ぎ!、と言わざるをえません。
呼吸をするというのは、前回も述べたように、基本的に自律神経の働きにより不随意的に行なわれるものです。息を吸おうとか吐こうとか、ことさらに意識しなくても、生体のほうで勝手にやってくれています。
ただ、呼吸は、基本的に不随意運動でありながら、意識で唯一コントロールできる随意運動的な要素をもつとされます。息を細く、長く、ゆっくりと吐こうと思うと、そうできますし、息をしっかり吸い込んであえて止めようと思うと、そのようにもできます。もちろん、それにしても時間的な制約、限度はあるわけですが、いずれにせよ、人の思い、意識で、ある程度、呼吸に介入することができます。
だからこそ、呼吸を深くしようとして、頑張り屋さんは、ハ~っ、とか、ス~っ、とか周りに聞こえるほどに力んでされているのかもしれません。
しかし、残念ながら、そういう努力は、あまり益がないように思われます。
どういうことかというと、前回述べたように、息を吸うというのは、胸郭が広がれば息が入ってきます。胸郭が狭まれば、息は出ていきます。横隔膜が下がれば、息は入ってきて、上がれば、息は出ていきます。運動をして、胸郭が広がったり狭まったり、横隔膜が下がったり上がったりすれば、それだけで呼吸はできているわけです。つまり、体を多方面、多角的に動かして運動するというのは、それだけで、いい呼吸運動をしているわけでもあります。
でも、力みがちな人は、もしかすると、体を動かすことと呼吸とがイコールである、というふうには思ってもみないのかもしれません。だからこそ、ことさらに、深く息をしなければ、と頑張ろうとされているのではないでしょうか。
そして、筆者の印象では、こういう息のしかたというのは、体が固く、緊張度の強い人に多いように思われます。そういう人は、何か動作をするときに、力を抜いてください、と言っても、力が抜けず、力んでやってしまう。そして、力を抜くのは難しい……、とたいていおっしゃいます。
無駄な緊張を解きほぐすには……
なぜ、そうなるのか。なんとなく、想像がつくような気がしないでもありません。
体が固い人は、体が自由に動かしにくいので、どうしても力を入れて動かそうとします。しかし、その体を動かす筋肉はというと、筋収縮することで機能が発揮できるのですが、体が固い人は、その筋肉が既に収縮して強張った状態にありがちですから、そんな状態では、もはや動かす余地があまりないわけです。動かす余地のあまりないものを、無理やり動かそうとウン、ウンと頑張っても、効果が上がることはあまり期待できません。
どうすればいいか、というと、緊張した筋肉をいったんニュートラルな位置に戻してあげることです。拮抗筋の働きを利用してストレッチする、というのはこうした方法の一つといえるでしょう。また、操体法的な運動のメカニズムを利用するのもいいでしょう。そうすれば、筋肉的に機能が発揮できる余地が生まれますから、過度に力まなくとも、望む動作がしやすくなります。
とともに、心の緊張も解きほぐしてあげることが大切になります。筋肉を収縮させるというのは、自律神経の交感神経の働きです。これに対し、筋肉を弛緩させるのは、副交感神経の働きになります。ですから、この副交感神経を優位にもっていけばいいわけです。
その手っ取り早い方法はというと、実は、息を吐くことです。息を吐くのは副交感神経の働きで、息を吸うのは交感神経の働きです。ですから、はぁ~と、息を吐く。そうすると、緊張が解けて、リラックスできます。ため息をつく、というのは、緊張優位に陥った心身を、安静な状態に引き戻す、無意識の動作ともいえるでしょう。
しかし、この息を吐く動作も、楽にしなければ、意味がありません。ハ~っ、とことさらに力んで息を吐くというのは、交感神経の領分とも重なるので、思ったほどの効果は期待できないように思います。
先ほど、「益があまりないのでは」と申し上げたのは、こういう意味です。
呼吸の質を高める……
ですから、上手に呼吸するためには、まず、体を日々の適切な運動や練功を通じて、柔軟にすることが第一に求められます。関節の可動域を広くし、骨と骨格筋が必要に応じて適切に働くようにする。体を安定して動かせるよう、体幹と末梢の関係を協調して動けるようにする。体の左右前後差や捻じれ、偏り等を改め、全身のバランスをよくする。そして、拙力(力んだ力の使用)を避ける。そのためには、地球の重力や意識、イメージを上手に利用することなども必要になるでしょう。
そうすれば、胸郭の開閉もやりやすくなり、横隔膜などの呼吸筋の働きもよくなるでしょうから、それを空気の新鮮な環境下でやっていけば、呼吸の質が大いに高まることが期待できます。無駄に力まなくとも、適度の運動、練功で、いい空気(酸素)が体に入って全身を巡り、二酸化炭素などの不要物が体外に排出され、体の生理的機能が目に見えてよくなることでしょう。
とともに、吐く息を細く、長くする。なぜ吐く息を言うかというと、上記のように、副交感神経の働きを優位にし、心身の無駄な緊張を解き放ち、心を安静にもっていくためです。吐けば、自律神経の働きで、無理をせずとも、空気は入ってきます。しかも、細く、長く吐くことで、肺胞に淀み溜まった古い空気が排出され、その分、新鮮な空気が肺の奥深くにまで満たされるようになりますから、体の全身、60兆の細胞の隅々にまでそれが送り届けられることにもつながるのです。
体と呼吸と心を一体のものとしてつなげる
そして、以上のことはけっしてバラバラにあるわけではありません。体は体、呼吸は呼吸、心は心と、それぞれが分離されてあるのではありません。体だけやっていても、呼吸だけやっていても、心だけやっていても、それぞれが分離されていては、大きな効用は望めないでしょう。なぜなら、心身は一体であり、周りの環境も含め、すべてはつながっているからです。
日々の修練で体をほぐしていけば、先述のように、呼吸の質も高まって、深い呼吸ができるようになります。
深い呼吸は、副交感神経を優位にし、心を安静にしてくれます。
心の安静は、体をリラックスさせることにつながり、動作が伸びやかで大きくなります。動作が伸びやかで大きくなれば、ストレッチ効果も生まれ、体の柔軟性がより高まってきます。また、気や勁(単なる筋力によらない力)の感覚も強まってきます。
体の柔軟性の高まりは、さらに深い呼吸へとつながっていきます。気や勁の感覚の高まりは、体をより強靭にし精神を明晰にすることにもつながるでしょう。
……という具合に、体と呼吸と心がそれぞれ因になり果となって、どんどん好循環となることが期待できるのです。
そしてさらには、瞑想しているかのような状態にもなって、心の奥深いところから、自然との一体感も養われるかもしれません。
気功的太極拳のすすめ
ちなみに、太極拳は動く禅、動禅といわれます。筆者が、(気功的な)太極拳を多くの方にお勧めするのも、太極拳が、そうした瞑想的な要素も含め、すべてを内包し、体と呼吸と心を一体のものとして、修養していくのに、とても優れた方法だと思うからです。
先に述べたことと重複しますが、気功太極拳では、
- 吐く→吸う→吐く→吸う、という呼吸の繰り返しが、一連の動作の転換を通じて、自然にできるようになっています
- ゆっくり吐けば、その分、動作もゆったり、大きくなります
- 動作が大きくなれば、体を楽に伸展させる効果が高まります
- 体をよく伸展させることができれば、体内での気(生命エネルギー)の流れがよくなります
- 太極拳特有の円の動きで、動作を多方面に、吐く→吸う→吐く→吸う、という(陰陽の)転換を無限に繰り返すことで、気(生命エネルギー)が体を隈なく巡るようになり、気感が高まり、勁道(勁が流れる道筋)が開き、勁が強まります
- ゆっくり、ゆっくり、細く、長く吐けば吐くほど、副交感神経が高まり、気持ちが落ち着き、安静になり、脳が休まります
- しっかり吐けば、その分、無理せずとも、吸うほうも深くなります
- 脳の働きも、無用の捉われから離れて落ち着き、エネルギー効率が高まり、明晰になります
- 心が安静で、表面的なさざ波が消えれば、自己の本質が見えてくるようになり、自然との一体感が増してきます(瞑想的効果)
もちろん、これらのことは一朝一夕になるものではなく、日々の修練、練功の繰り返しで、自然にそのような境地にまで至ることができるということでしょう。
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いま、ニコニコ太一気功の太極拳コースでは、勉強中の十三式太極拳の体の動かし方をひとまず身につけたところで、今度は、呼吸や心も含め、本当の太極拳らしさを求め、メンバーのみんなでやっていこうとしているところです。
実は、太極拳の呼吸のしかたについては、自然に任せるのがいいということで、功法の書物を見てもあまり詳しく具体的に書かれていないことも多いのですが、それでも太極拳の型のそれぞれには、当然その型なりの意味合いがあり、それに応じて呼吸のあり方も自ずから決まってきます。ですから、そういうものも含めて、みんなでより質を高めるべく、勉強しつつあるわけです。そうして、体と呼吸と心を一体のものとして動いていくことで、まだ日は浅いのですが、明らかに、メンバーの動きの質が変わりつつあるような気がしています。今後が楽しみで、いまワクワクしているところです。(⌒-⌒)ニコニコ
35 「呼吸」について
27 夏の暑さに負けない気功法
25 一生楽しめる健康法!
23 三骨軽打法について
21 百病を癒す甩手!
20 練功から煉功へ!
17 結構すごい、ツボの効果!
15 “湿邪”から身を守ろう!
13 猫背を癒す簡単な方法
10 気功的平衡ということ
06 体幹と末梢運動について
05 姿勢美人と中心力
03 静止して動く!
02 “脱力”のちょいヒント