健康太一ミニコラム:気持ちよく、体を伸ばすということ
体を伸ばすのは、とても気持ちのいいものです。でも、そうではないとか、逆にツラいというのは、どこに問題があるのでしょうか?
43 気持ちよく、体を伸ばすということ
上手く“張力”が働かせられない
前々回(No.41)、易筋経との関連で、“張力”について取り上げました。その主旨は、(拙力によらず)意識を上手に活用して、体を「遠くへ、遠くへ」伸ばすことをしましょう! というものでした。
なぜ、張力を働かせるといいのか――その効用についてもその前々回のコラムで触れました。
しかし、改めてその点を強調してサークル活動をしてみると、思いのほか、十分にはできていないらしいことに気づきました。
どういうことかというと、本来、体を伸ばすというのは、とても気持ちのいいことなのです。でも、人によっては決してそうではなく、あまり伸びが感じられないとか、逆にツラいといった思いをすることさえあるようです。
いったいナゼ、そんなふうになるのでしょうか?
そのことについて少し考えてみると、以下のような点があるのでは、と思い当たりました。
妙な筋力信仰に陥っていないか
まず思いつくのは、筋力に対する強い思い込みがありはしないか、ということです。
私たちはどうも、体を動かすということは筋肉を使うことであり、その筋肉を動かす力が強ければ強いほど、運動がスムーズに、しっかり行なえる、と考えてしまいがちです。
だから、体を伸ばすということも、力を使って筋肉を働かせ、グイグイとやりがちです。でも、筋肉の基本的な性質は、縮むことで力を発揮するところにあります。伸ばそうとしているのに、縮む力に頼るというのは、どこか変です。
確かに、姿勢を保ったり体を動かしている筋肉(骨格筋)には、伸筋と屈筋があり、伸筋を使うと体を伸ばすのに使えると思いがちです。が、これとて、筋肉は縮むことで力を生み出しています。ただ、力の方向が伸筋と屈筋では拮抗関係にあり、逆に働く、ということでしかありません。たとえば、曲がった腕を伸ばすときは上腕三頭筋の伸筋が働き、伸びた腕を曲げるときは上腕二頭筋の屈筋が働く、ということで、筋肉の縮む力を使って、付着する骨を動かしているわけです。
こういうと、では、筋肉に頼らずしてどういうふうに体を動かすのか、という疑問がすぐに出てきそうですが、一つは、発想を転換して、骨を動かす、というふうに考えます。私たちの体には絶えず地球の重力がかかっていますから、この重力を使って、骨の位置を巧みに操作することです。
たとえば腕であれば、腕を力を抜いて垂らしておけば、当然腕は下に垂れ下がって伸びます。じゃあ、腕を下から上に持ち上げるときはどうなるのか、となりますが、こんなときはやはり体の力を抜いて意識を下にかけ、体重を(まるで死体のように)大地に乗っけるようにすると、大地からの反作用力が強く働いて、腕が軽く上がるようになります。太極拳で起勢から腕を前に上げていく動作などがその典型的な例といえるでしょう。こうすることによって、筋力の使用は最低限で抑えられ、腕は思いのほか軽く、舞いあがるようになります。
関節を固めすぎると動きが制限される
また、筋力に頼りすぎることで考えられる別の弊害は、それによって関節が締め付けられることです。筋力を働かせるということは、付着している骨の末端を引き付けることですから、その分、関節部位も締まってきます。ところが、体が固い人は、関節も柔軟性を欠きがちですから、動かないとなると、先の筋肉信仰ともあいまって余計に力を入れてウンウンと頑張ろうとします。こうなると、ますます伸ばそうとしながら引っ張るということになりますから、思うような結果につながらないことにもなります。
ですから、いずれにしても、気持ちよく体を伸ばすには、無駄な筋力の使用、これを拙力といいますが、これを避けるようにすることが大切といえるでしょう。
体幹を上手に使おう!
拙力を避けるには、体幹を上手に使う、ということも大切になるかと思います。
ご承知のように、筋肉にはアウターマッスルとインナーマッスルの二種類があります。
アウターマッスルは体の表層にある白色の筋肉で、筋肉の収縮速度が速く、瞬間的に大きな力を発揮できます。ただ、その分、疲労しやすい筋肉でもあります。筋トレをしてモリモリした筋肉を身にまとう、というのはこの白筋のほうです。
これに対し、インナーマッスルは体の中心にあって専ら姿勢を制御し安定を保つ深層の赤みの強い筋肉です。筋肉の収縮速度は遅いのですが、疲労しにくいという特徴があります。こちらの赤筋のほうは鍛えても、それほど太くはならないとされます。
体幹は、厳密にいうと、頭・腕・脚以外の胴体部分を指し、そこにはインナーマッスルもアウターマッスルも含まれるのですが、ここで体幹の上手な使用といっているのは、このインナーマッスル部分をうまく使いたい、ということです。
というのも、表層の筋肉、アウターマッスルは、最深層の筋肉、インナーマッスルからの情報をもとに、協調して働くとされ、体全体の中心部分の安定性を図りつつ他の末節部分の動きをコントロールしようとします。
しかし、私たちは、体を動かそうとするとき、ややもすると、反応速度の速いアウターマッスルを主に使いがちです。そこに妙な筋力信仰があると、なおさらそうなりがちです。そうなると、中心部分の安定性が損なわれやすくなりますから、体全体の安定性を保つためにアウターマッスルが働いて、よけいに緊張体質の強いガチガチの体になりがちです。こうなると、体のスムーズな動きも妨げられることにもなります。
ちなみに、少林達磨易筋経の「第七式 九鬼抜馬刀」の中に、手を背中に回し伸ばして甲を背中に貼り付ける、という動作が出てきます。しかし、あまりに筋肉を鍛えすぎて腕が太くなりすぎたりすると、こういう動作もしにくくなってしまうわけです。
部分でなく、全体を協調させて動く
これは、以前のこのコラムか何かでも書いたことなのですが、毎週2回の「ニコニコ太一気功:やわらか気功」では、基本的に手足など末梢につながる関節と筋肉をよくほぐすこと、そして、無駄な筋緊張を避ける脱力の練習、さらには手足の土台となる胴体、すなわち体幹を能動的に動かす、動かせるようにすることを、かなりの時間を費やして丁寧にやっています。
それというのも、そのことで、自ら進んで体の動きを起こし、それを末梢へとつなげていくことを重視しているからです。
樹木を見るとおわかりのように、少々の風で枝葉が揺れても幹はどっしりしたままですが、幹を揺らす大風となると、枝葉は大きく揺らぎ、打ち震えます。人も同じで、末梢の部分だけをいくら懸命に動かしても、体全体の効率的、合理的な動きにつながらないことも多いのです。
とりわけ太極拳は、腰(体幹)を主宰者として体を運用していきますから、体全体の協調性を養ってバランスよく動くには、とても優れた功法であると思っています。
体を「観る」ことが不足していないか
「やわらか気功」では、体を気持ちよく伸ばす功法の一つとして「峨眉伸展功」の実習にも力を入れています。この伸展功で大切なポイントとして挙げられているのが「大・慢・停・観」の四字です。
詳しくは『峨眉伸展功』(張明亮著 ビイング・ネット・プレス刊)に懇切丁寧に書かれていますので、是非こちらをお読みいただきたいのですが、ここで極々簡単に要点のみを紹介しておくと、「大」は、動作を(筋肉を傷めない前提で)最大にすること。「慢」は、ゆっくりと速度を均一にして行なうこと。「停」は、待つこと。動作が最大になったところで、少し止まるということ(気という生命エネルギーの到達を待ち、気血を合流・融合させるため)。そして「観」は、自分自身を静かに観察することです。
気持ちよく体を伸ばすことが苦手という人には、どうもこの「観」という視点がややもすれば不足しているように見受けられます。
「やわらか気功」では、そのわかりやすい導入部分として、たとえば上肢のやさしい関節ほぐしもしており、右腕を動かしたら必ずそのあと左右の腕、体を見比べ、その違いを感得してもらうよう奨励しています。しかし、ときにはやはり、単なるスポーツ的運動の一種ととらえているためなのか、じっくりと体の中を観る、ということが十分ではないように感じることもあります。
こうして体の中を、動作と結びつけていつも観察していると、自分の体の中でいま何が起きているのか、(動かしている部位だけでなく)体全体のどこにどういう反応があるのか、どこが伸びているのか、あるいはコワバッているのか、ツライのか……と、いろいろな学びが得られます。その中で、気持ちよく体を動かしていくためには何が必要かといったことも見えてくるように思うのです。
呼吸はどうか、心はどうか
気持ちのよさがあまり感じられませんという人に、実際に動作をしてもらって見てみると、呼吸を止めてやっていることに気づくことがあります。呼吸を止める、ということは、体を固めるということであり、いきおい動作もスムーズではなくなります。そこで、「息を吐きながらやってみてください」と言うと、今度は、力を入れて息を吐こうとされます。要するに、それだけ緊張体質が強い、ということの現れなのでしょう。
息を吐く、ということは、体を緩めることです。そして心を緩めることでもあります。それで今度は、「意識して息を(強く)吐こうとするのではなく、肩の力を抜いて、そっと溜息をつくように、ふうっと楽に吐いてください」と言うと、今度は、ああ、と仰り、始めて体が緩んだ感触を掴まれ、気持ちのよさをわかってもらえることもあります。
息を吸うというのは交感神経の働きで、息を吐くというのは副交感神経が優位になる働きです。すると、心身がリラックスして、安静な状態へと導かれます。体の緊張と合わせ心の緊張をも解く意味でも、自分の呼吸をよく観て、体を動かすようにしていただければと思います。
呼吸を深くする
いまニコニコ太一気功サークルでは、「元気気功」でヨーガの実習もしています。といっても、本格的なものではけっしてなく、「太陽礼拝」を中心に非常に基礎的なものをしています。これは何のためか、というと、呼吸を深くしていきたいためです。
というのも、緊張体質の人は、先の「息を止める」ということとも関連しますが、呼吸も浅くなりがちな点が見受けられがちなためです。
息を吸うということは、体の中、体の全細胞に酸素を供給するということです。そうすると、体が活性化し、元気になってきます。また、体も若返りますから、柔軟にもなってきます。つまりは、吐くことも重要ですが、吸うことも重要なわけです。吐くと、体は心とともに緩みますが、吸うとシャンとしてきます。吐くのを陰、吸うのを陽とすれば、陰陽があいまって初めて全体が調うわけです。
太陽礼拝では、体全身を使って動作しますから、呼吸が深くなっていきます。とくに呼吸を深くしようと思わずとも、体全体を動かすことが自然と深い呼吸につながっているわけです。
そんなことで、いま楽しみながら実習しているところですが、やってみると汗を大量にかかれる人が少なからずいらっしゃいます。それだけ体の燃焼効率が高まっているといえるわけですが、あわせて、気功的にいうと、体の中に含まれる“濁気”を排出することに、ヨーガ的にいうと、心身の“浄化”につながっているのではないか、と思っています。
実習がより深まれば、気持ちよく体を伸ばす、ということも随分やりやすくなるのでは、と期待しています。
気の巡りは十分か順当か
先の「峨眉伸展功」について触れた際に、「気」ということを少し取り上げました。拙力を極力避け、体を柔らかくして「遠くへ、遠くへ」伸ばす、伸展させることは、この気の運用とも関わってくるといえるでしょう。
もっとも、気については、フツーの人にとっては、極めて馴染みの薄いものですから、内気を正しく巡らせるといっても、なかなかピンとこないのではないかと思われます。ですが、筆者は「気功整体」を業としている関係上、その重要性については、日常的に痛感しています。
ごく最近では、こんなことがありました。
30過ぎの若い女性が整体を受けにこられたときのことです。体のあちこちが具合がよくない、とのご相談でした。詳細は省きますが、体の気の流れをチェックしたところ、東洋医学でいうところの肺・大腸経絡と、腎・膀胱経絡、さらには心・小腸経絡に変調、つまり気の巡りに問題があることに気づきました。さらにみていくと、その複数にわたる問題の主因には、腎経の問題があることがわかりました。そこで腎経の主要経穴(ツボ)である湧泉穴に補の施療(エネルギー不足を補う施療)をしたところ、しばらくして変調が解消、顔色も良くなり、元気を回復されたのでした。どうやら突然の不調の原因は、体がいささか疲れていたところに、このところの急激な気温の低下で、腰の腎に影響が現われたようです。ちなみに、冷えは腎にとって大敵で、この腎機能が低下が、肺・大腸や心・小腸の働きにも悪影響を及ぼしていたものと思われます。
こうした例からもある程度おわかりいただけるように、内気を正しく巡らせるということは、体の健康・元気を保つうえでも、大変重要であるわけです。
その意味でも、気持ちよく、体を伸ばすことを日常的、定例的にやっていただき、内気を正しく巡らせて、自身の健康の維持・管理に役立てていってもらえれば、と思っています。
以上、思いつくまま、いま自分がわかる範囲であれこれまとめてみました。またまた悪いクセで文章が長くなってしまい、また内容的に取り留めのないところもあるかと思いますが、どこかに何かヒントになることが少しでもあるようでしたら、大変幸いです。(;^_^A アセアセ (⌒-⌒)ニコニコ
38 O脚が5分で治った!?
36 「呼吸」について(続)
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23 三骨軽打法について
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15 “湿邪”から身を守ろう!
13 猫背を癒す簡単な方法
10 気功的平衡ということ
06 体幹と末梢運動について
05 姿勢美人と中心力
03 静止して動く!
02 “脱力”のちょいヒント