腰が重たく、前後屈できない!
六日前から腰が重たく、前屈、後屈ができない。なんとかしてほしい。不調の原因を探っていくと、お腹の問題が、そしてさらに……
<腰ベルト2本して、どうにか仕事をこなしている……>
該 当 者: 50代 女性
該当部位: 腰
訴 え: 六日前から腰が重たく、つらい。1か月間、休みなしで仕事をしてきたせいで腰にきたのかも。前屈、後屈ができず困っている。なんとかしてほしい……
<見立て~施療>
運動の好きな活発な方で、外見もスマート。立ち姿も若干頭部が右に振れてはいるものの、比較的スッとしている。お話を伺うと、1か月間、休みなしで仕事をしてきた。腰にきたのは、この疲労が原因ではないかと思うとのこと。今は腰ベルト2本して、どうにか仕事をこなしている状態だという
伏臥位で体の動揺をみると、骨盤、肋骨部は右へ。腰部にコワバリがあり、左側が影響を及ぼしている。両腸骨は頭方へ動揺。左大腿二頭筋ユルミ、左下肢外側コワバリ。両足に冷え。外に張った左脚ふくらはぎ他動的に内へ寄せると、骨盤、肋骨部の動揺が止まる。左足湧泉にユルミ。ここを締めると、やはり体の動揺が止まる。湧泉は腰と関係の深い腎経の経穴であり、ここを施療ポイントと定め、指で微刺激。十数分して、本人腰の辺りが温かくなってきたとの由
しかし、足の冷えは右はかなり改善がみられるものの、左足はさほどでもない。本人が右の肩に違和感があるというので、さらに探っていくと、右僧帽筋ユルミ、上腕部ユルミ、前腕部コワバリ、第二指商陽ユルミ。ここを次の施療ポイントとして微刺激を加えたところ、左足踵にかなり温かみが出てくる。ただし、足の趾はまだ残っている感じ
商陽は大腸経の井穴(爪の角にあり、気が湧き出づるとされる重要なツボ)であり、その名のとおり、大腸にお臍の近くでつながっている。当然、腰とも近いことから、仰臥位で腹部に軽く触れてみると、右側にコワバリが感じられ、本人も背中に響くとのこと。一方、左側は冷えて、ユルんでおり、こちら側が影響部。そこで、ここを三番目の施療ポイントとして微刺激。十分足らずで、足の冷えがさらに改善。本人も温かくなったことを実感
立位で前後屈してもらったところ、かなりスムーズにできるようになった
その後、一週間後に来院。腰はかなり楽になってきたが、まだ重たい感じが残るとのこと。今回も、前回とほぼ同様の施療をなぞるような結果に。腹部の局所的な冷えが気になることもあり、お腹を冷やさないよう十分に気をつけるよう伝える
<体臭が気になる……>
その後はしばらく間があき、1年ほどして、今度は体臭が気になる、といって来院。お話を聞くと、例年、この時期(夏)は、ビールの飲みすぎ、アイスの食べ過ぎのせいか、下痢気味で、体臭も脇の下など結構きつく、洗濯物も黄ばむほどですごく気になっている、また、左膝の内側が痛いとのこと
立位でみると、重心が右脚にかかっているほかは、バランスはまずまず良好。右脚重心なのは、左膝をかばっているためか?
伏臥位でみると、踵と坐骨の位置は左右ほぼ揃っているものの、右足に冷えがある。骨盤部は左に動揺。左腰部に緊張。左肩甲部にユルミ。そこから腕を辿っていくと、左手第五指小沢で変調がとれることがわかって、少々驚く。というのも、小沢は小腸経の井穴であり、名前の示すとおり、小腸とつながっているのだが、小腸は体臭と関係が深いからである(小腸は、よく知られているように、食物の消化と吸収、そして免疫をつかさどる重要な機能をもつ。しかし、腸内環境がよくないと、腸内で有害細菌が増え、それが口臭や体臭の元になるとされる)
続けて、仰臥位で膝の内側の圧痛部について調べると、こちらは左足第一趾の肝経大敦が影響しているのが判明。この大敦と左手小沢との関係をみると、小沢のほうが影響部とわかった。そこで、小沢を施療ポイントとして指を当てて、微刺激。しばらくすると、右足踵も温かくなってきて、本人もとても気持ちがよかったとのこと。また、左膝については、術後に正座してもらうと、まだ痛みは残るものの、きつくしなければ比較的楽とのことであった
以前に大腸経に問題があり、今回は小腸経ということなので、腸内環境が体臭や下痢とも関係することをわかる範囲で説明し、冷たいものを極力控え、体調を整えることの大切さを話させてもらった
<考察> 左膝内側の圧痛が物語るもの
- この頃は開業してまだ年月も浅く、正直なところ、不調の原因にまっすぐ辿りつくところまではなかなかいけていない。お話を伺いながら、協同作業で、段階を追って施療を進めている観が強い。体全体をもう少し俯瞰的に眺められるようになるのは、もっと後のことになる
- 膝の内側圧痛については、このときはそれほど深く意味合いを考えていなかったのだが、その後、腸肝循環という言葉があるのを知り、改めてその機能的な関係性を知るとともに、人間の体のある種不可思議さに驚かされた
- 肝臓で生成された胆汁が腸と肝臓の間で循環して再利用される腸肝循環についての詳しい説明は、その任にあらずで、省かせていただくが、問題は肝臓の機能が低下することによって、悪臭の元となる物質がうまく処理されず、口臭や体臭が強くなる要因になるとされることである
- ちなみに、東洋医学では、肝経が心・小腸経の親に当たる。つまり、左膝内側の圧痛は、それが単独に切り離されてあるのではなく、肝経の変調を物語るものとして、それが小腸経への負担につながったというふうに、もっと注意深くみるべきであったのかもしれない
- 人間の体は全てひとつながりであるということについて、改めて教えられた気がした