首が痛い、お医者さんからは「悪くなったら手術を」と言われたが……

見出し画像ボタン 首が痛い、お医者さんからは「悪くなったら手術を」と言われたが……

首が痛い画像

マシーンを使って筋トレをしたら、それ以降首が痛くて辛い、お医者さんからは「悪くなったら手術を」と言われたが……

<マシーンで筋トレしたら、首に異変が……>

該 当 者: 60代 女性
該当部位: 首から肩にかけて
訴  え: 首を後ろに反らすと痛い……

<見立て~施療>
症状が悪化したら手術を……

首が痛い、と言って来院された。お聞きすると、洗濯物を干そうとして上を向くと痛くなるとのこと。さらにお伺いすると……。少し前にお友達に誘われて、フィットネスクラブに行ってきた。マシーンを使った筋力トレーニングなど独自の運動プログラムを、インストラクターについて体験してきたのだが、どうも自分には合わなかった気がする。運動中も気になっていたのだが、それ以後、首から肩にかけて痛みだし、辛くなってきた。心配になって、整形外科病院に行って診てもらったところ、頚椎の5番から7番にかけて頚椎症的な兆候が窺える、今すぐどうということはなさそうなので、様子を見て、もし症状が悪化するようなら手術しましょう、と言われた。首や肩は相変わらず痛くて気になるし、このまま、手術を待つしか方法がないのだろうか……。そう思って、当院に来られた、という

病院での検査結果の詳細についてはそれ以上伺えなかったので、話を、生活上の注意点に移し、何か日常的に気をつけるべきこととか避けるべきことの説明を受けましたか、と質すと、それは何も聞いていない、とのことだった。また、頚椎症とはどういう症状をいうのかについても、特に説明は受けなかった、という。そこで、ひとまず、ごく基本的、教科書的な説明からさせていただくことにした。というのも、自分の今の辛い症状がいったい何を物語っているのか、何が自分に起きているのかの理解がなければ、ご自身で体を健康体に復する道筋が見えてこないと思うからである

首の異変は全身に波及する恐れ

できるだけわかりやすく、人体図なども見てもらって、数十分(!)ほどかけてお話したことは、概ね次のようなことである

  • 首には、脳と全身の情報伝達を担う脊髄が通るほか、頸動脈、椎骨動脈等を通じて脳へ血液を送っている。また、気管や食道、その他、新陳代謝を促進するホルモン分泌器官の甲状腺などもある。したがって、首に何かが起きると、血流が悪くなるし、新陳代謝も悪化して、全身が不調に陥りかねない。脊髄が損傷すると、手足に痺れや麻痺が起きたりする恐れもある
  • 洗濯物を干そうとして上を向く、首を後ろに反らして痛いというのは、首の骨と骨との間にある椎間板の弾力性が欠けてきているのかもしれない。状態が悪化すると、骨棘というトゲのようなものができて、脊髄や神経根を障害したり、また、頚椎椎間板ヘルニアといって、椎間板の中心にあるゼリー状の組織が飛び出して、同様に脊髄や神経根を圧迫することがある。そうなると、首や肩の問題にとどまらず、頭痛、手の痺れ、指がうまく動かせない、さらにはうまく歩けない、排尿が困難になる、などの全身的な症状すら出かねない
  • ちなみに、頚椎5番の神経根が障害されると、腕が上げにくい、肘が曲げにくいとか、肩甲上部から上腕外側に痛みとか痺れが出たりする
  • 頚椎6番では、手首を上に反らすのが困難だったり、前腕の撓側から母指にかけて痺れや知覚障害が起きたりする
  • 頚椎7番では、肘を伸ばせない、中指に痺れ、知覚障害が起きたりする
  • 幸い、お医者さんの検査・診断によれば、それほど深刻な状態には立ち至っていないもようだが、単に首の凝り、肩の凝りと安易に考え、そのうちに治るだろうと高をくくって、痛みを放置して油断すると、大変なことにもなりかねない
  • とりわけ日常生活のなかでは、上を向く動作に気をつけて、洗濯物を干すなどするときも、ハンガーをうまく使うなどして、首に負担をかけないようにしたほうがいい
  • また、問題を首、肩だけに限定せず、今の症状がどこから来ているかを全身的な観点から捉え、早めに体をケアしていくことが望まれる。筋力トレーニングをして異常を感じたということは、そうなる要因が何か他に潜んでいるかもしれないので、そこもみていったほうがいい

そんなことをやり取りをしていると、話のなかで、庭仕事をしたときに右手の第一指と肘の辺り、右の肩甲骨付近に痛みを感じたこととか、以前に右足の踵やアキレス腱などが痛くなり、足が冷たくて気になった、というようなこともわかってきた

全身を観察チェックしてみると

いちおう話が終わって、いよいよ実際の施療に移る

まず立位での観察チェックでは、関節各部に気(生命エネルギー)の詰まりが多く窺え、一見して右肩が下がり、左肩が上がっているのが気になる。リストを使った経絡チェックでは、肺・大腸、脾・胃、肝・胆の各経絡に変調が感じられる。ご本人からは、胃の調子が悪く、薬を服用していることもわかった

患側の右手の反射区(相応区)では、同じく関節各部に異常反応があるほか、甲側の仙骨尾骨接合部に強い反応が窺える。試しに、この部位に瀉の処置をしてみると、手の反射区の異常反応個所が正常化し、リストでの経絡の変調も消えることがわかった

そこで、伏臥になってもらって、体をチェックすると、骨盤部、胸郭部が右に動揺しており、仙骨部を調整すると、その動揺が収まることがわかった

仙骨部から全身を調整

以上から、仙骨部を影響部とみて、ここから施療をスタート。手技により、仙骨の各部のコワバリとユルミを調整。その後、下半身を整体。右足踵が固く、膝の緊張度が強いのをていねいにほぐし。ご本人、とても気持ちが良いとのこと

その後、腰椎に移り、5番、4番を調整。胸椎3~5番付近が右に偏位し側弯傾向があるのを調整。頚椎を伏臥位と坐位で調整。右の肺経中府、雲門に圧痛。右手第2指商陽を圧すことでとりあえず消えるも、途中の肺経、大腸経絡ルート上に気の逆流現象があるのを確認し、調整。手が温かくなってきたという。また、頚椎3番、4番を調整することで、6番、7番が右に偏位していたのが、ある程度調整される

術後、右肩の部分と左膝、肺経と脾・胃経絡にはまだ変調が残るものの、今回はここまでとする。それでも、ご本人の弁では、体が楽になり、いつしか首、肩、腕の痛みを忘れていたとのことであった

血流調整も

4日後、二度目の来院。その後、姿勢に気をつけ、首を反らさないように注意したこともあってか、首や肩の調子はかなり良い、ただ、右腕を使いすぎるとまだ重たい感じが残るとのこと

早速、体を観察・チェックすると、関節の詰まりはほぼ半減し、脾・胃経絡に変調が残存する程度にまでは状態が復調している気配が窺えた。ただし依然、仙骨部が主な影響部として残っているのがみてとれたことから、ほぼ前回同様の施療を、骨盤のねじれの解消と両膝、右踵のほぐし、脾経の三陰交から血海にかけて調整、肩甲骨の間と胸郭部のほぐしなどを中心に、行なう。その後、顔面部での胃経承泣、四白を用いての調整や頭蓋部の偏りなどを整えていった結果、足が温かくなり、腕を含め全体が軽く、楽になったとのことだった

<考察> 痛みは体が発する警告信号。警告の意味合いをよく把握して対応しよう

私たちは、どこそこが痛い、苦しいとなると、その痛い、苦しい症状ばかりに目を向けがちである。そして、その痛い、苦しい症状がとりあえず消え去れば、一件落着したとばかりに、そのことを忘れがちである。しかし、その症状の原因が、痛い、苦しい場所以外にあったとしたら、どうだろう。形を変え、度合いを変えて現われたり、ぶり返したり、ということが、これから先もあるかもしれない。なぜなら、根本の原因が依然解決されずに残されているままになっているからである

したがって、痛い、苦しい症状が現われたら、それは体が発している警告信号だと考え、信号を発する部位だけに囚われるのではなく、どうしてそうなっているのかまでも含めて、体全体のなかで、機序(物事の成り立ち)をよく把握してから対応したほうがいいと思う

首の痛みは一つのきっかけ

今回のケースでも、一見、自分には合わない筋肉トレーニングをしたことが首の痛みを生み出した原因になっているようにもみえるが、実態はというと、体のゆがみであったり、血流など循環の悪さがむしろ主因にあって、そのことがたまたま筋トレをきっかけに顔を覗かせたようにも思えるのである

体のゆがみが及ぼす影響

というのも、右肩が下がり、骨盤部、胸郭部が右に動揺しているというのは、いわば右体側を詰めた姿形であり、これでは、右肺を圧迫することから、新鮮な空気(酸素)が体の隅々にまで入らず、細胞の働きを不活発にしかねない。そのことは新陳代謝にも影響を与え、関節を固くしたり、血液等の循環にも響くことになろう。施療中に感じた息が浅い傾向やまた体の関節を固くする使い癖も、そのことを物語るものかもしれない。以前、足が冷たくて困ったことがある、というのもその現れとみていいだろう

東洋医学の視点からは

そのことは経絡的にみても同様で、肺・大腸経というのは、自然の気を体内に取り込んで、最終的に体外に排出する役割を担う。肺、大腸というと、臓器的にはかけ離れた場所にあり、かつて整体学校で学んでいた頃は、なぜこの二つが兄弟の如き表裏経なのか疑問に感じていたのだが、あるときハッとどちらも「入れて、出す」という視点を得てから、妙に納得した記憶がある。それはともかく、上記で述べたことは、入れて、出すという機能の変調という点で、東洋医学の面からも裏付けられるような思いがする

また、この肺・大腸経絡の体を流れるルートは、肺経が腹部から肺に行って、鎖骨下辺りから腋下、上腕内側、肘、前腕を通って、母指の端につながる。一方、大腸経は、第2指の爪の先から肘の外側を経て、肩まで達し、第一胸椎、鎖骨上窩辺りを通過し、胃経を下って、肺と連絡、大腸へとつながる。また、別ルートとして頚部にあって、首を屈曲、回旋、側屈する働きをもつ胸鎖乳突筋を通って、鼻翼に向かう線もある。ご本人の言葉にあるように、右手の第一指と肘の辺り、右の肩甲骨付近に痛みを感じたり、右の肺経中府、雲門の圧痛が右手第2指商陽を圧すことでとりあえず消えたり、肺経、大腸経絡のルート上に気の逆流現象が窺えたのも、こうした脈絡から眺めると、十分あり得ることだと思う

足の冷えとの関係も

右腹部にある肝臓にも着目すると、右体側を詰める姿形は、その物質代謝や解毒作用、血液の循環量の調整といった機能にも良からぬ影響を与えることにもなるだろう。肝・胆の各経絡に変調が窺えたというのも、そのことの現れかもしれない。ちなみに、東洋医学で肝経というのは、筋と筋運動の統率者とされ、筋骨の痛みや引きつれなどは肝の病変の現れとされる。同様に、表裏経の胆経も、関節が固いとか肩こりとかと関係するとされている

目を転じて、体のねじれという点からも少しみておくと、仙尾骨は頚骨と背骨を介してつながっている。したがって、下にある仙尾骨がゆがめば、首も当然にゆがみやすくなる。体がねじれていることで、首の疾患を呼び込む下地をつくっているともいえるのである

また、体のねじれは、当然のことながら、腹部にある胃腸の働きにも影響を与えることが推測される。東洋医学でみても、脾・胃経絡は、飲食物の消化と発酵作用をつかさどり、体温の発生とも関係する。肺から送られてきたエネルギーで胃が働き、そうして生まれたエネルギーが脾により気血の流れとなって全身に送られるとされるわけだから、ご本人が、かつて足が冷えて困ったというのも、こうした脾・胃経絡の変調とも重なりあうものなのだろう

体を芯から強くするために活かす

以上、いろいろみてきたが、今回、首の痛みが出たということは、こうした様々な体の問題が、たまたま体のなかでも弱い部位の首に現れた、とみるべきで、本当に癒すべきは、体に内在する諸問題の解決であって、やはり首だけを当座処置してそれで終わり、というわけにはなかなかいかないと思う

今回の首の痛みがそのことを教えてくれ、体を元々から良くする視点、きっかけを与えてくれたのだとすると、むしろそのことを、ある意味感謝し、これからの日々の暮らしの中で、体をさらに、芯から強くすることに活かされれば、どんなにかいいだろうと、一介の気功整体師としては、心から望んでいる