自分の体がどうなっているのか、みてほしい――ある頚髄損傷者からのご依頼
ある頚髄損傷者から、リハビリが中断状態になっている、自分の体がどうなっているのか、一度みてもらえませんか、とご依頼が……
気功整体的な視点からの施療を一度体験し、見解を聞きたい……
知人から当院を紹介された、と言って、お電話をいただいた。簡単に要約すると、
以前、木から落下し頚髄を損傷。その後リハビリに努めた甲斐もあって、なんとか歩けるようになったが、血圧が高くなり、リハビリは中断状態に。そうこうするうち、今度はバイトの仕事で重いものを持ったときに腰を痛めてしまった。いったい、自分の体がどうなっているのか、みてもらえないだろうか……
そんな趣旨のご本人からの直接のご依頼だった。聞けば遠方の方であるし、頚髄を損傷されたということなので、一介の気功整体師に過ぎない自分には荷が重すぎるのではないかと躊躇されたが、電車に乗っていけるとのことであり、なにより、全体的な視点から施療に当たる当院の東洋医学的、気功整体的な物の見方、施療の進め方に興味があり、一度体験し、見解も伺ってみたい、とのご希望だった。知人の方のご紹介でもあり、それならばと、お引き受けさせていただくこととした
<ドクターヘリに運ばれて……>
該 当 者: 60代 男性
該当部位: 頚髄
訴 え: 自分の体がどうなっているのか、全体的な視点からみてほしい……
頚髄四肢不全麻痺に
電話から8日後の朝、紹介者の知人の方と一緒に来院。お住いのある地方都市から電車に乗って、はるばる3時間以上をかけ、前夜は知人の方のお宅に泊まり、こちらに来てくださったとのことだった。そのことに頭を下げつつ、改めて、事の経緯についてお聞きすると……
2年前に庭木の手入れをしていたところ、突然、落下。物置の庇に臀部を打ち付けてバウンド。庭土に落ちて動けなくなり、ドクターヘリで病院に緊急搬送。診断では、落ちる際に頸が激しく振れて頚髄を損傷。病名は、頚髄四肢不全麻痺(C6)とのことだった。ただ、不幸中の幸いというべきか、神経そのものがひどいダメージを負うところまではいかず、神経をかすった程度ですんだらしい
とはいえ、手足は動かず、巧緻障害(ボタンを留めにくいとか、箸を使う、字を書くなど、細かい指の動きが要求される運動の障害、筋力の低下・萎縮など)、歩行障害、排尿障害が現れた。手足は当初は動かず、不自由で、指を動かすときは涙が出るほど痛かった。足も押すと痛かった。ただ、足は入院した翌日には動きだし、車椅子を使って移動した。小水は1か月間ほどはバルーンを使用。便は1日1回、車椅子トイレを使い、浣腸して行なった
結局、病院には3か月と1週間いて、毎日リハビリに努め、退院後は、2週間に1回、1年後には4週に1回の頻度で、PT(理学療法)とOT(作業療法)をしてきた
高血圧の症状が……
ところが、その後の血圧測定で、収縮期血圧が200mmHgを超えたことがあり、病院からは、血圧が高いとリハビリは無理、危険といわれ、リハビリは中断に。お医者様から指示されたとおり、食事での塩分を控え、薬を主とした治療を進めていった結果、血圧はどんどんいい方向に改善、ふだんは160前後で、気分も悪くない。ただ、リハビリについては現在、ドクターストップがかかったままになっている。病院の方針は方針として、できれば運動療法を再開できないものかと思っているのだが……
今度は腰痛を発症……
そうこうするうちに、当院に電話する少し前に、バイト先で重い物をもったときに腰が痛くなり、屈む動作や、歩くのがつらくなってきた。しかたなく、仕事を休み、温灸をしていたところ、ほとんど問題がなくなり、今日こちらに来院するときも大丈夫だった
腰の痛みは、30年間続けてきた空手をしていた際に、1、2回痛めたことがある。このときも特に治療はせず、そのうちよくなった。坐骨神経痛を患ったときは、鍼灸院に10日通って、すっかり治った。ただ、今回は2年前の事故のこともあり、いささか心配になり、電話ではこの腰痛の件も合わせて、お話した
ちなみに、空手はかなり熱心に取り組んだ。前蹴り500本を毎日、10年間やった。青梅マラソンにも出たことがある
左手左足が不自由……
いまの状態は、頸は痛まないし、後ろに反らすのも大丈夫。ただ、左手、左足は不自由で、少し長く歩くときはロフストランドクラッチ(前腕部支持型杖)を使っている。握力は、右手はかなり戻ってきて女性並みの20台に、ただ左手は18台にとどまっている。また、膝下の温度感覚がにぶく、40度でも大変ぬるくしか感じられない。足はしびれるというよりは、両脚ふくらはぎの下がチリチリする。手のシビレはないが冷えており、眠るときは手袋をしている。足はくるぶしから下、指先にかけて冷える。ムクミは、左右両側の大腿と下腿にかけてたまにある
<見立て~施療>
ご本人への手紙……
概ね以上のようなお話を伺ったあと、早速、施療に移った。ただ、今回は施療の概要を手紙にして、後日、ご本人宛にお送りしたので、それをほぼそのまま、以下に紹介することとしたい……
一昨日は、遠路をお越しいただき、ありがとうございました。
その前のお電話で「自分の体がどうなっているのか知りたい」と仰っておられましたが、施療時間が4時間を超えてしまったこともあり、施療を終えたあと、この点についてのお話が、必ずしも十分にはできませんでした。実は、施療の過程で、感じたことは随時お伝えするようにしていたのですが、時々(深く)お眠りになっていたので、あるいはお聞き逃しの点もあるかもしれません。そう思って、概要を以下に簡単にまとめておきました。一気功整体師としての立場からの個人的な見解(見立て)としてお受け取りいただければと思います。何か今後のために参考にしていただけることが少しでもあれば幸いです。
気功整体的な観点からの見立て(概要)
*施療の主なポイントは
①チャクラの不活性
②立位姿勢の偏り(上体が左に十数度傾斜、頭はそれをカバーするためか右に)
③全身の関節各部での緊張(気血の流れの滞り)
④内臓各部の変調(東洋医学的には腎膀胱経、肺大腸経、心小腸経、肝経)
*施療の概要は
〈伏臥位にて〉
・右腸骨上辺の変調。これが脊椎左側の緊張、拘縮、脊柱の側弯、上体・頚部の左右への動揺に影響
⇔ 水晶ポイントによる補瀉調整、軽い手技による脊椎骨の変位是正
・右腸骨上辺の変調は、右足裏の第五趾側(膀胱経のライン)の変調が影響
⇔ コワバリとユルミを調整
・大腿下肢部のほぐし
>>> 以上の結果、脊柱の側弯、上体・頚部の動揺がかなりの程度是正(立位で確認)
〈仰臥位にて〉
・足、下肢の操体的、気功的ほぐし(ポイントは、小さく、無理せず、呼吸とともに、イメージの活用)
・右鎖骨下(肺経の中府、雲門付近)、右上腕内側(心経)の圧痛、変調
⇔ 気の流れの調整
・上記変調は、心経が影響(胸骨が上に動揺)
⇔ 心経の調整
・上記の変調は右肝臓部(肝経)が影響
⇔ 水晶球によるほぐし
・顔面部のほぐし、頭部・後頭部のほぐし、気功、水晶によるチャクラ調整
>>> 以上の伏臥位、仰臥位での施療の結果、チャクラの回転が正常化し、立位姿勢が良化、顔の色艶がよくなる、などが認められる
*施療をしてみて、個人的に感じたこと
・大きな事故に遭遇し、過度の緊張状態に置かれた。事故による脊髄の障害とともに、それが脊柱起立筋とも関係の深い腎膀胱経に強い影響を及ぼした
・腎膀胱経は肝胆経のお母さんに当たる経絡で、腎膀胱経の変調が肝胆経に影響を及ぼしている。ちなみに、肝経はストレスと関係が深く、胆経は筋肉と関係する
・肝胆経は心小腸経のお母さんに当たる経絡で、この変調が心小腸経に影響を及ぼした。ちなみに小腸経は自律神経系とも関係が深い
・精神的緊張、筋肉的緊張がゆるみ、心小腸経の働きが活性化すると、副交感神経が優位となり、リラックスできる。血流にも好ましい効果があらわれ、高血圧の是正にもつながることが期待できる
大きな事故を体験されたので、精神的にも肉体的にも極度の緊張状態に置かれたのも、ある意味当然かと拝察しますが、今後は、関節各部をやわらかな方法(操体的、気功的に、小さく、無理せず、呼吸とともに、イメージの活用)を通じてほぐしていくことがやはり肝要かと思われます。
血圧値が高いことで病院でのリハビリが止まりがちであることを気になさっていたようにお見受けしましたが、確かに、緊張状態が持続しているところに(実際のリハビリのやり方は存じませんが)拮抗筋ストレッチなどの訓練を強めにしすぎると、血管壁に無用の圧をかけてしまう恐れもあるかもしれません。
ではなくて、精神的にも肉体的にも、上手に弛めるということを主眼に今後の療法の一つに取り入れられることをお考えになってはいかがでしょうか。
人間の体は、ご承知のように、60兆の細胞から成っている、といわれます。細胞の働きに感謝し、(余計な差し出口かもしれませんが)大きな事故に遭われたにもかかわらず、こうして驚異的な回復を示しておられることに感謝し、焦らず、地道に、今後の療養にあたられることを願っております。
ちなみに、(知人の方から紹介されて)既にお取り組みの香功は、(脊柱を中心とした)中枢、インナーマッスルを活性化し、全身の気の流れ、血流や自律神経系の良化にも好影響を与えるものではないかと思っています。気功的な正しいやり方でやっていかれるといいと思います。
あと、体を冷やさないようにお気をつけください。少しお話したように、蒸しショウガなどもいいと思います。
もし今後何かおありでしたら、ご遠慮なく、お声をおかけください。お役に立てることがありましたら、当方にとっても大変幸いです。
以上、意を尽くせないところも多分にありますが、趣意、ご賢察いただければ大変幸いです。
それでは、お体を十分においといくださいますように
for health 和楽院
<考察> 心身の緊張を上手に解放していこう!!
施療後とその後のご様子について、今回随行していただいたご紹介者から話を伺えたので、それも紹介しておくと……
・体が軽く、とても気持ちがいい、と本人も、施療していただいた後に、言っていたが、実際、顔色と姿勢が良くなり、随分年齢が若返ったように見えたので驚いた
・施療当日の帰り路では、来るときと全然違って、足の運びも軽やかで、元気よく歩けていて、これにも驚いた
・ひと月後に本人に聞くと、あれ以来、大変調子がいいとのことで、体がおかしいと思ったら、教えてもらったとおり、よくなれ、トントンしている、すると、楽になる。スタスタ歩けるし、バイトもばりばりやっている、と話していた……
よくなれ、トントン、操体法
ちなみに、よくなれ、トントンというのは、前の投稿記事「アトピー、眼瞼下垂で困っています……(続)」の中で触れたことがある。また、先の手紙の中で、関節各部をやわらかくほぐす方法として「操体的に」と言っているが、この点についても、この同じ投稿記事の中で触れているので、併せてご覧いただけると有難い
見えない緊張を解きほぐそう
今回の施療を振り返って改めて思ったのは、現代人の緊張のある意味、根深さである。実は施療を一通り終えて、せっかく遠方よりお越しいただいたので、最近しているという香功をご本人に演じてもらったのだが、残念ながら、いささか固い動きで、脱力が十分にできていないものだった。そこで、ごく簡単にやり方についてもアドバイスさせてもらったのだが……
これは、ニコニコ太一気功サークルでもそうなのだが、初心者ではなかなか力み(拙力)を取るのが難しいようである。たとえば、前後の甩手(スワイショウ)といって、ただ腕を前後に振るだけのいたって簡単な気功法があるが、どうしても手、腕の力が抜けず、力で動かそうとする。力が入っている、と指摘すると、今度は、力を抜くために力を入れて、余計におかしな動きになってしまう
そこでそういうときは、呼吸に合わせてやってみることをお勧めする。息を吐くときに、力んで吐こうという人は比較的少ない。まずは、吐く、ことである。吐くことができれば、空気は自然に体に入ってくる。過呼吸症候群というのは、息を吸おう、吸おうとして、かえって吸えなくなっているのではなかろうか。そうではなく、吸うことはとりあえず置いておいて、まず息を吐く。それも、心もひっくるめて、ふぅ~、と、ため息をつくように、決して無理せず、楽に、吐くことである
ところが、緊張の強い人は、この息を吐くということすら、力を入れて、頑張って吐こうとする。つつ一杯、これでもか、とやってしまう。心をゆるめるためにやっていることが、却って心を緊張させている気配すらある
なかには緊張が習い性になっていて、緊張していることすらわからなくなっていることもある。緊張してますよ、というと、いいえ、そんなことはありません、最近は心配事もとりたててないし、と言いつつ、実は肩こりがひどくて困っている、と仰る。肩こりと精神的な緊張は別物という認識で、両者がどうも結びついていないようなのである
それでも、そんなやり取りをしながら、単純な体の動きを繰り返し行ない、体の内側をよ~く眺めてもらうようにしていると、ふとゆるむ感覚が見えてきて、はじめて、あ~、自分は緊張してたんだ、とわかったりする。すると、私の肩こりは長くてもう治りません、とさっきまで言っていたのが、なんだか肩も楽になってきたような気がする、と仰る
呼吸というのは、吐くと吸うであり、両方のバランスがとれていてこそ、体の機能も整ってくる。体自体も上部と下部、左側と右側、胴体と手足、要するに全体のバランスがとれて、はじめて整ってくる。心と体もそうで、心身は分かちがたく、体がゆるまなければ心はゆるまず、心がゆるまなければ体もゆるんでこない
というと、ゆるむのが全てか、と思い込まれるかもしれないが、ゆるみっぱなしでもマズい。ゆるむことを強調するのは、現代人がとかくアクセク、アクセクして、早く、高く、多く、と過緊張状態にあるからである。呼吸と同様に、緊張(吸う)、弛緩(吐く)、緊張(吸う)、弛緩(吐く)と、波のようにゆったりと繰り返すのがいいのだと思う。それは人が起きているときに交感神経が優位に働き、寝ているときに副交感神経が優位に働く、というのと同じだと思う
実は、この辺のことについては、姉妹サイトの「ニコニコ太一気功」のホームページでも触れている。ご興味がおありの方は、次の記事などもご覧いただくと大変うれしい
⇒ なぜ力を抜くのが大切なの?
⇒ 無意識の緊張を解きほぐすには
⇒ 深い呼吸の効用
⇒ ひとつながりの心と体
⇒ 天地大宇宙に溶け込む
ふぅ~と、楽に、息を吐こう
今回、リハビリの再開をむずかしくしている要因の一つが高血圧にあるかと思われるが、過度の緊張の持続は交感神経優位に働き、血管が収縮、血圧を高めることになるし、血管壁自体も固くして柔軟性を奪ってしまう恐れがある
ご依頼人は、空手の修練のため、前蹴り500本を毎日、10年間やったというほどの武道家で、人一倍頑張り抜く力が強いのではないかと思われる。事故の後遺症に立ち向かうために、そうした頑張リズムをさらにさらに発揮されてきたのではないかと推察するが、やはり時には息をふぅ~と、楽に吐いて、心身をゆるめ、解放させてあげることも大切だと思う。そうして心身の緊張を上手に解きほぐすことで、血圧も安定し、いい方向へと事態が動いてくれるのではないだろうか……。そのことを切に期待し、望んでいる