ガーというひどい耳鳴りに困っている……

その体の不調はどこから?見出しボタン画像1 ガーというひどい耳鳴りに困っている……

ひどい耳鳴りに困っている画像

ガーというひどい耳鳴りが止まず困っている、どうしたらいいの……。施療で浮かんできたもの、それはどうやら心身の緊張が発する一つの信号のようだった……

<まるで換気扇が回っているよう……>

該 当 者: 50代 女性
該当部位: 耳ほか
訴  え: ガーというひどい耳鳴りが止まず、困っている……

女性が来院。お困りの点を、お聞きすると……

2か月ほど前から体調を崩し、車酔いをしたり、目に異常が出て焦点が合わなくなったり……。眼科に行くと、心因性と言われた。幸い、目はその後収まってきたが、今度は、それまでたまに感じていた耳鳴りがひどくなってきた。耳鼻科では筋肉弛緩剤などのお薬をいただき服用しているが、なかなか良くならない。ガーと換気扇が回っているような、反響するような音が止まずに困っている。なんとかならないだろうか

耳鳴りのほかに、いま何か特に気になる箇所はありますか、と続けて尋ねると、頭部から両肩、左右の首、とくに左が気になっている、とのことだった

<見立て~施療>
肩から首にかけて問題が……

立位になってもらい、姿勢をみたところ、大きな歪みはさほど感じられない。頭部から両肩、左右の首が気になるとのことだったので、試しに、理学的検査法による頸椎テストをしてみたところ、頭を右に傾け左肩を軽く押し下げた際に、左肩に少し攣れる感じがあるという。頸と肋骨上部をつなぐ斜角筋について調べると、左腕側で軽い陽性反応が窺える

手首を使って経絡をチェックしてみると、心経絡と脾経絡に問題が感じられる。東洋医学では、心経絡は、心と密接に関係し、血脈を主(つかさど)るとされる。また、心は眼の疲労とも関係するとされるから、お話しにあった目の異常ともつながっていたのかもしれない。また、汗とも関係しており、汗をよくかかれますかと尋ねると、そうです、との返事なので、やはり心経絡上の問題がありそうである。もう一方の脾経絡についても、あれこれ思い、憂えるとこの経絡に影響を与えるとされるから、いずれにしても、眼科の先生が指摘されたように、心因性の何かがあるのかもしれない

ただ、たとえそうだとしても、それを直接的に追い求めるよりは、現に体のほうで、なにがしかの緊張が、本人が訴えているように、今は頭部から両肩、左右の首の変調となって現れているわけだから、とりあえずはこちらのほうから変調を正していくことが妥当かと判断された

いま現にある体の変調を正すことからアプローチ

まず、伏臥位で、ていねいに背骨を調整。頸椎はとても固い印象があり、とくに左側が固い。横臥位になってもらい、肩から頸にかけて念入りにほぐし

仰臥位では、鎖骨下中央部、胸部に圧痛あり。これをていねいにほぐし。その後、下肢に移り、とりわけ動きの固い左側に重きを置き、念入りにほぐし。その結果、下焦部分(下腹部)の変調が取れる

また、脾経絡の経穴である左足第一趾の隠白に強い圧痛があるのを調整。右足の中趾がゆるいのを、足裏の腎経絡の経穴である湧泉を賦活したところ、しっかりとする

施療後、本人の感想を聞くと、首が軽くなり、左のハリもかなり取れた。寝ていて、息が胸に入った感じがした。自分の家で寝ているのかと思った。周囲が明るくなった感じがする。ただ、耳鳴りは依然残っているとのことであった

当方からは、今回は、ひとまず体全体のバランスをとることを主眼に施療し、中焦部分(上腹部)、上焦部分(横隔膜から上の胸部)は、残念ながらまだ変調が残っていること、経絡の脾経と心経への対応も十分には手が付いていない旨を伝え、今回の施療結果を受けて、体調がどう変化するか、経過をみてもらうこととする

<見立て~施療> (2回目以降)

その後、耳鳴りについての施療は、十数回を数えることになった。以下は、経過と施療の要点のあらましである

●2回目(3日後)
歯を噛みしめる癖……

経過)
体そのものは楽になった。ガーという音、耳の中で反響する感じが、少なくなった。仕事に夢中になっているときは感じないが、静かになったときに音を感じる。耳鳴りは以前は左が主だったが、今は両方に感じる。耳の外から耳の中へ。右耳は、押さえるとガーが強くなる。左耳は押さえると、ガーが弱くなり、自然な感じがする。右耳に指を入れると、ガーが強くなり、左耳に入れると、ガーが弱くなり、自然な感じがする。耳を押さえて指で軽くはじくと、右のほうはガーが強くなり、左のほうは反響が低い、頭の中の音も耳鳴りも。耳をさすると、一瞬楽になる

施療)
リスト(手首)での経絡チェックでは、脾経、肝経、腎経に変調が窺える

立位でみると、右肩が長く見え、左肩が短く見える。相応して、右手側が前に来て、左手側が後ろに引かれている。右手が長く、左手が短い。坐ると、さらに顕著に、頭が右へ傾斜し、右肩が下がる。腹部は前に行き、臀部は後ろに引かれている。試しに、右手を前から左肩に回してもらうときよりも、左手を右肩に回したときのほうが、上腕にツッパリ感が強い

耳をチェックすると、左耳は外は問題ないが、中は変調が窺える。右耳は外も、中も変調。これは、右側に圧がかかりやすい姿形で、それが、耳の反応にも表れているということか? ただ、左側をみると、胸鎖乳突筋辺りに強いコワバリが窺えるが、このこととの関係はどうなのか?

前回の施療で、心身の緊張感が強く感じられたので、確認のため、歯を噛みしめる癖があるのか聞くと、あると言う。そのことに気づいたのは数年前からとのこと。試しに、口を開けて右側の咬筋をゆるめてもらうようにすると、音が消える感じがすると言う。咀嚼筋の一つである側頭筋を下へ下げると、音が静かになる。ガーもなく、反響もない。本人、え~、耳鳴りがない! と驚かれる。同様に左側についてみると、こちらはとくに変化なし。ちなみに、食べるときは大半、左側で噛んでいるとの話。左側側頭筋と、同じく咀嚼筋の一つである外側翼突筋についてもチェックするが、とくに音の変化はみられない

上記を受けて、咬筋、側頭筋、舌筋、顎二腹筋、外側翼突筋、胸鎖乳突筋を、ていねいに右側からほぐし。途中で、耳鳴り音が消失。左側は特に胸鎖乳突筋のコワバリが強く、かなり時間をかけてもみほぐし。その後、耳から首、顎にかけての筋肉をほぐす。その結果、耳の外、中の変調が、右左ともに解消

施療後)
本人、耳が戻った気がする、とくに顔の整体をしてもらったときは、大変気持ちが良かったとのこと。術後、再度体をチェックしてみると、OK部分多くなるも、脾経、肝経、腎経の変調は残ったままであった。また、左肩背部にもコリが残る。腎経に変調があることから、施療中にトイレの回数についてもお聞きしたが、やはり頻尿ぎみとのこと。この辺も含めて、次回、改めてみることに。なぜ歯を食いしばるのか、頻尿ぎみなのか、その辺が解消されなければ、形を変えてまた問題が出てくる可能性があるかもしれないことを話

●3回目(3日後)
頻尿の傾向が……

経過)
耳鳴りは、以前と比べると楽。ただ、まだ、ガーといっている、右も左も。左のほうが強い。今日は頭が重く、痛い。こめかみの上辺り。左耳押さえると、反響が大きくなる。右耳押さえると、やはり大きくなるが、左のほうが右に伝わってくるような気がする。左耳をさすっても変化なし。右耳も変化なし。耳をさするのは、家でもするようにしている。歯を噛む癖は、寝た時に無意識のうちに噛んでいるように思う。頻尿は、お茶を飲むと出やすい。回数は夕方のほうが多い。若い人の倍以上は行っているのではないかと思う。夜中も、3時ごろ、5時ごろとかに

施療)
立位でみると、頭がほんの少し右に傾き、右肩が少し前に出ている。
リストでの経絡チェックでは、脾経、肝経、腎経、三焦経に変調が窺える

伏臥位になってもらい、施療をスタート。体の左右への動揺はあまりないものの、首と左後背部にコリがあるのを、軽い圧でゆるめる

側臥位右向きで、肩関節ほぐし、上腕、背中ほぐし。施療中、左上腕から左肘、左前腕央部三焦経ラインに痛みがある。押すと痛い。左手四指三焦経の経穴、関衝にコワバリ。ここをゆるめると、左手上腕、肘、前腕の痛みが消失。関衝のコワバリをとるために、腎経絡を試す。腎と心経絡は東洋医学では夫婦関係といわれ、拮抗作用がある。腎経の足裏の経穴である湧泉、然谷を押圧するもさほどこれという感覚はなかったが、足首からその上の太谿、築賓の経穴を押すと、痛みが出る。築賓を押さえると、左上腕から前腕にかけての痛みが消失。築賓を適宜押さえつつ、左肩~首のラインを手技でほぐしていったところ、そのうち耳鳴りは消失(左も右も)。時間がかなり経過したため、この段階で施療を終える

施療後)
本人曰く、左がずいぶん楽になった。頭が重く、痛かったのも、消えた
ただ、本人の感想は感想として、施療後のチェックでは、脾経は改善がみられるものの、腎、肝、三焦経絡は依然変調が残る。耳鳴り、歯を噛む癖、頻尿は腎と関係が深いことを説明

ちなみに、東洋医学では、神経性疲労は肝虚や腎虚と関係するといわれ、腎は耳とも結びつきが強いとされる。緊張から歯を噛みしめたりすると、コメカミの筋肉が働く。その筋肉が凝ってくると、目と耳の神経を圧迫することは十分に想像される。耳鳴りも、そうしたことの症状の一つとして現れているものではないか、とも話

●4回目(およそ2週間後)
このまま寝てしまいたい……

経過)
ずいぶん楽になった。左だけガーという音がまだ残っているが、音は小さくなっている。普段は気づかないことも。寝るときに多少音がする程度。家では、口の運動、肩の運動、気づいたときにしている。左手、肩、上腕のハリはまだ残っている。寒くなって、多少鼻風邪ぎみ。左右の踝の上を押さえると痛い

施療)
立位で姿勢をチェックしたところ、顕著な動揺はみられず
リストでの経絡チェックでは、肺経、心包経、腎経、小腸経に変調が窺える

コリの強い左肩背部から施療を開始。整体手技でほぐし。左頸部も同。本人、楽になり、気持ちがいいとのこと

心包経を施療。腎経と結びつけて行なうも、つながりがうまく見えず。腎経は、下腿両側とも経穴に沿って痛みあり。両大腿部内側にも痛みあり。痛みを取るべく、ほぐし。両下腿内側の気の逆流部分を調整。その結果、心包経の変調は消える。ただ、腎経の痛みは依然残る。肝経、心包経とのつながりをみるも、不明。最後にベッドに坐ってもらい、心経につながる膻中を押さえると、腎経の痛みが緩和。この段階で2時間近くになったため、残りは次回に。再度チェックしたところ、経絡の変調は、腎経を残し、消失

施療後)
本人、とても気持ちよく、このまま寝てしまいたい、とのこと。上手にストレスを抜く生活をされるようアドバイス(アロマ、ハーブ、音楽など)。本人、膝(内側)も気になっているので、こちらもみてほしいとのこと。腎経のケアをすると、改善の可能性があるかもしれないことを伝える

●5回目(およそ1週間後)
股関節ほぐし

経過)
左側、音は小さくなっているが、まだガーという音が残っている。風邪はその後ひどくならずに治りかけている。今はむしろ、膝が、立ったり坐ったりすると、左右共に痛いのが気になる。しばらく休むと楽だが、動くと痛くなる。膝は内側が痛い

施療)
立位でみたところ、姿勢の顕著な偏りはみられず
リストでの経絡チェックでは、肺経、三焦経、腎経、肝経、小腸経に変調が窺える

仰臥位で施療をスタート。首と左肩甲骨内側にコリが強い。下肢内側を押さえると、本人の言葉どおり、大腿内側から内踝にかけて圧痛あり。左脚、下腿には気(エネルギー)の逆流がみられる。両股関節が固く、両足首も固い。腎経の膝の経穴である陰谷に左右ともに圧痛がある

試しに、両足(脚)を内に入れると、体の緊張感が強まり、左足(脚)を外に開くと、楽になる。右足(脚)を外に開くと、背中中央、両脚膝内側、左下腿に緊張感が強くなる。両足(脚)を外に開くと、右脚は楽になるが、左脚内側と下腿は緊張感が強いまま残る

そこで、両脚の筋肉ほぐし、股関節ほぐしを念入りにしていったところ、痛みはかなり緩和。股関節の可動域も改善し、動きもスムーズになる。今回は、これでタイムアップ

施療後)
本人曰く、体が芯からほぐれた感じがする、気持ちがいい、このまま眠りたい、とのこと。左耳の耳鳴りも今はしていない、とのこと。気の流れの全体的な調整は、次回にすることとする

●6回目(およそ1週間後)
腰が痛い……

経過)
耳鳴りは依然左が残っている。前ほどではないが、やはりガーと鳴る。ただ、今は腰が痛い。2日前に荷物を持ち上げた際に痛めた。立ったり坐ったりすると、右側が痛い。左の腰は重い

施療)
調べると、右肩、右下肢、頭部に変調が窺える。頸の左から肩背部にかけて、コリが強い。また、両下腿内側に痛みがある

リストでの経絡チェックでは、脾胃、三焦、腎、心、胆経絡に変調が窺える

まず、整体にて、上体(背)→下肢→胸、肩→頸と、全身をていねいにほぐし

その後、腎経の兄弟経絡にあたる膀胱経の頭部経穴である攅竹(右側)と、腎経の足首の経穴である太谿(右側)との間で、補瀉調整。それとともに、右側の腎経脈に沿って、湧泉から陰谷までの経穴を刺激し調整。これにより、当初あった下腿内側の圧痛が消える。この後、念のため、左側でも攅竹、太谿を反対に結んで補瀉調整。その結果、変調のあった膻中、百会が正常化。経絡も、腎経を除いては、変調が解消された

施療後)
本人の言によれば、右の攅竹を触られたときは、涙が出そうになった。まるで心が浄化されたような感じがした、とのこと。腰も軽くなった、という。ただ、左耳はまだ少しガーと鳴っているとのこと

●7回目(1週間後)
気の流れを整える

経過)
腰の痛みは、昨日、今日と、感じていない。耳は左がまだ少し残っている。耳鼻科の聴力検査を受けたが、両耳とも前に比べ良くなっている。肩のコリは、多少ある。また、右膝の辺りが何か変で、気になっている

施療)
リストでの経絡チェックでは、大腸経、三焦経、心包経、腎経、小腸経に変調が窺える。そのあと伏臥位で背中をみると、両腰にハリが残っている

下肢については、左側内側に圧痛はないものの、右側は、腎経の足首上の経穴である築賓と、膝部の陰谷に圧痛あり。陰谷の圧痛は、胆経の経穴である膝陽関を刺激することで圧痛が消え、膝陽関の圧痛は、膀胱経の股関節近辺の経穴である秩辺(右側)で取れることがわかった

そこで右秩辺をていねいにほぐし。その結果、右膝の圧痛取れる。続けて、左秩辺ほぐし→左右両腰ほぐし→左肩ほぐし→右肩ほぐし→再度下半身ほぐし、これにより中心部(両脚付け根)に固さがあったのが、ある程度取れる。引き続き、右頸→左頸を整体。左頸の圧痛箇所、ハリのある部分をていねいにほぐし

そのあと、両側の膀胱経頭部の経穴である攅竹―心経手首部の経穴である神門で補瀉調整を行ない、気の流れを整える

施療後)
本人によれば、体が軽くなった。耳鳴りも、今はしていない。このまま寝ていたい、とのこと。ただし、腎と心包の経絡については依然変調が残っていた

●8回目(およそ10日後)
顎がカチカチと勝手に動く……

経過)
まだ、左耳の耳鳴りが少し残っている。静かなとき、気にすると気になる程度のことだが…。健康診断では、聴力に異常なしとの判定だった。以前、高い音と低い音が聞きづらくなっていたのが、元に戻ってきた。膝もそんなに痛くなくなり、多少右が痛い程度。腰もほぼ大丈夫。ただ、右肘が少し変

施療)
リストで経絡の動向をみると、肺経、胃経、心包経、腎経、心経、胆経に変調あり。前回に比べ、気の流れ的には大腸から肺経に移行のほか、胃経、心経、胆経にも出てきている

全身整体。体をみる限りは、かなり整ってきている印象。下半身中央部に固さが残るのをほぐす。頸の左側、後頭部にかけてコリが残るのをほぐす。右腕が多少重く、心経手首部の経穴である神門と陰げき、肘部の少海に圧痛あり。念のため、左腕もチェック。心包経の手首部の経穴である内関に圧痛あり。これは、右腕神門を調えることで、圧痛が取れる

その後、前回同様、右側の攅竹と神門の間で補瀉調整をしたところ、本人グーグーいびきをかいて眠る。顎がカチカチと勝手に動き、自分で自分をほぐすかのような動きが印象的だった。こののち、左側でも攅竹―神門間で補瀉調整を実施

施療後)
本人、体軽くなり、気持ちいい、とのこと。ただし、腎と心経絡は依然変調が残る。また、右肘の少海に圧痛が残る

●9回目(5日後)
耳鳴りが(ひとまず)気にならなくなった……

経過)
耳鳴りは、気にならなくなった。歯を噛みしめるのは、もしかして寝ているときにしているかもしれないが、普段はないように思う。仕事が忙しく、かなり集中して細かい作業をしている。それが肩にきているかな、と思うことがある

施療)
リストで経絡チェックをしたところ、脾経、心包経、腎経に変調が窺える。心経が消えたことと、耳鳴りが気にならなくなったこととは、あるいは関係しているのだろうか?

前回と同様、全身整体。下半身中央部が、少しずつ柔らかくなってきている様子。左側の前・上腕部から左頸にかけてやや重い感じあり

頸、後頭骨から顔面頭蓋にかけて念入りにほぐし。本人、頭に新鮮な空気が入ってきた感じがする、とのこと

心包経の経穴である手首部(左側)の大陵、内関、げき門から肘の曲沢にかけて圧痛があるのを、経穴刺激でていねいにほぐし。その結果、本人、痛みが消えたとのこと。ただし、念のため調べると、大陵、内関の変調は依然残っている状態にあった。そこで、耳の近く側頭骨周辺に触れていた際に変調を感じた完骨(胆経の経穴)と、心包経の内関を結んで補瀉調整をしたところ、大陵、内関の変調が消失した

施療後)
本人、とても体が楽、とのこと。耳の具合はかなりいいが、引き続きもう少しケアをお願いしたいとのこと

●10回目(1週間後)
頭蓋骨調整

経過)
耳鳴りは、あえて気にすると、左側にまだ少し残っている。両方の肩、腕と右膝がたまに気になる

施療)
リストによる経絡チェックでは、脾経、胃経、腎経、心包経に変調が窺える

両腕から肩、上腕部にかけて調べると、数か所に圧痛あり。これらの圧痛は、大腸経の手の経穴である合谷で取れる。また、足首の上、内側にある脾経(胃経の兄弟経絡にあたる)の経穴、三陰交を触ると右膝内側の圧痛が収まる

その後、全身整体。頭蓋骨調整をしたところ、本人、グーグー眠る

ちなみに、私たちの頭は、頭蓋骨という一個の骨からできあがっているように思われるかもしれないが、実は23個ほどの骨が寄せ集まり、関節してできあがっているのだという。関節だから、当然微妙に微細に揺れ動き、きつくなったり弛んだりしている

頭蓋骨調整というのは、この関節の微妙、微細な崩れや乱れを、非常に繊細なタッチで調整するものである。たとえば一つ、二つ例をあげれば、頭蓋底中央部、鼻腔の奥に位置し、まるで蝶が羽を広げたような形の蝶形骨という骨から突起した大翼という骨の伸展・屈曲をうまく調整できれば、交感神経と副交感神経のバランス回復に役立つとされる。緊張感のとくに強い人には効果のある手技といえよう

また、側頭骨乳様突起の動きのある、なしを感知して調整することで、難聴や耳鳴り、メニエール病の改善に役立つといわれている

施療後)
本人、とても体が楽、気持ちよかったとのこと。ただし、腎経絡の変調は残ったままで、その他の経絡については、少し改善した程度にとどまる

●11回目(2週間後)
脳内が脱力したようにグラッと動く感覚……

経過)
耳鳴りは、左側がたまに静かになったときとかにある。両手の母指を仕事でよく使ったせいか、痛い。膝は大丈夫

施療)
リストによる経絡チェックでは、肺経、腎経に変調が窺える

全身整体。とくに上半身、頸、肩、頭部を念入りに行なう

両手第1、2指の第一関節が異常に固く、ほぐすのに時間かかる。そのあと、頭蓋骨調整。脳内が2回ほど脱力したようにグラッと動く感覚あり。本人は、グーグーいびきをかいてよく眠る

施療後)
本人、とても体が楽、気持ちよかったとのこと。顔色もよく、肺経、腎経の変調は消えていた

●12回目(およそ20日後)
耳鳴りは、ほぼ気にならなくなった……

経過)
耳鳴り、左側がたまにあるが、そんなに気にならない。腰も痛くないし、膝も大丈夫。ただ、肩がこっている感じがする

施療)
リストによる経絡チェックでは、胃経、腎経に変調が窺える

前回と同じく、全身整体。とくに背部、股関節部(左がとくに固い)、手と腕(とくに指関節、肺大腸経・心小腸経を中心に)、頸、肩、後頭部を念入りに行なう

その後、目の下の胃経の経穴である承泣と、足背にある同じく胃経の経穴、衝陽とを結び、補瀉調整。本人、すぐにいびきをかいて眠り始める。術後、調べると、胃経の変調は取れたものの、腎経についてはまだ残っていた

施療後)
本人、体に新鮮な空気が入った、体が楽になった。耳鳴りはないとのこと

●13回目(1週間後)
耳鳴りは、気にならなくなった……

経過)
耳鳴りは、気にならなくなった。手の指が痛い

施療)
リストによる経絡チェックでは、肺経、心包経、腎経、心経に変調が窺える

施療は、全身整体を主に進め、あわせて、気の流れを適宜、調整。とくに手指については、念入りに行なう。その結果、先にみられた経絡上の変調は消失

施療後)
本人、楽になった、スッキリした、指も軽くなったとのこと

以後、14回目(およそ20日後)、15回目(同)と、耳鳴りについては、問題なし。全身整体で、体を整える

<考察> 耳鳴りは、単に耳だけの問題にあらず……
まるで薄紙をはぐように……

今回長々と取り上げたのは、開業して数年経った頃の体験事例である。回を追って、いちいち紹介させていただいたのは、心身の問題というのは、やはりそれほど簡単にはいかない、という思いがあるからである

お読みいただければおわかりのように、施療はまるで薄皮をはぐように、行きつ戻りつしながら、進んでいった感が強い。初回の肩、首から始まり、歯を噛みしめる癖、頻尿、風邪、膝の痛み、腰痛、肘の痛み、さらには頭蓋関節のこわばり、経絡・気の流れの乱れ……と、一見、耳鳴りとは直接的には関係のないかのように思われるかもしれない様々な問題に、次から次へと対応してきた

心身は全てひとつながり……

しかし、心身は全てひとつながりであると考えれば、こうした対応もけっして意味のないものとはいえないと思う。心身の緊張が、形を変え、姿を異にし、さまざまな現れ方をしているだけで、耳鳴りという不快な現象も、そうした流れの中の一つの現れに過ぎないといえるのではないだろうか

考えてみれば、今回のご相談者は、主婦として、また仕事を抱えながら、多忙な日々を送られてきた。本人がそうとは気づかなくても、さまざまな緊張が、澱(おり)のように心身に積もり溜まって、心身に刻み込まれていったとしても、いっこうに不思議ではないだろう。施療中、ご相談者が気持ちよくお眠りになることが多かったのも、そうした緊張の深さを物語るものなのかもしれない

そして、心身は全てひとつながりであるがゆえに、そうした様々な影に隠れ積もった緊張が、その時々に絡み合い、もつれあって、いまという時間を形成しているのだろう。それゆえに、いま起きている問題に向き合い、それをそのつど正し、解決し、整えていくことが、複雑に絡み合い、もつれあった心身の問題を、徐々に、徐々にでも解きほぐしていくのに役立っていくのだと思う。耳鳴りだから他のいま起きている問題は無関係として切り捨てるのでなく、いま現にある体の変調が耳鳴りとどう結びつくのか、そういう視点から考え、対応していくことがやはり大切なのではないだろうか。初回の折にも述べたが、心が絡んだ問題、無意識の緊張への対処は、ストレートにそのことに迫っていくよりも、ある程度遠回しにみえても、体に現れた目に見える変調をそのつど正し、整えていく、そういうアプローチ法があっていいのだと思う

結果として、今回は、耳鳴りがある程度収まるのに3回、健康診断での聴力判定で異常なしとなり、高い音と低い音が聞きづらくなっていたのが元に戻ってくるのに、さらに4回、そしてご本人が耳鳴りはもう気にならなくなったというまでに、さらに5回ほどを要している。これが回数として多いかどうかはわからないが、施療に携わった者としては、それだけ耳鳴りという体の不調が全身性のものである、という実感を強くしている

ちなみに、その後、当院の標準の施療時間を、当時の1時間から、現在の2時間に延長し、体の全身性、心身のつながりを、これまで以上にしっかりみようと思い始めたのも、こうした体験が一つのきっかけになっていることを付け加えておきたい

心身の緊張を取り去る時間をもとう!

なお、いきなり話が飛躍するようだが、いま私たちが地域の仲間とやっているニコニコ太一気功サークルでは、放鬆功といって、心身の緊張を取り去る、捨て去る気功法をカリキュラムに組み込んでやっている。ただ静かに立つだけの、時間にして5分ほどの短い、ある意味簡単なものだが、なにかと忙しい現代人には、是非こういう時間を一日のなかに採り入れ、習慣化されたらいいと思う

今回、ご相談者が施療のなかで、いみじくもふと漏らされた「まるで心が浄化されたような感じ」「体が芯からほぐれた感じがする」「体に新鮮な空気が入った」というような気分を味わい、日頃の生活で刻み込んだ、自分では普段気づきにくい無意識の緊張も含めて、洗い流すようにするのである

興味のある方は、姉妹サイトの「心と体の健康づくり ニコニコ太一気功」のホームページを覗いてほしい。また、放鬆功については、下記の投稿でも少し触れているので、こちらもご覧くだされば、と思う

⇒ 放鬆功で心の緊張を解放しよう!
⇒ “ただ立つだけ”で心身が整うの?