五十肩で日常生活にも困っている……
肩が痛い。腕を持ち上げるのや背中に手を回すのが、痛くてできない。日常生活にも困る。なんとかならないか……
<さまざまな病歴の後に……>
該 当 者: 70代 女性
該当部位: 肩、腕ほか
訴 え: 肩が痛い、腕の上げ下げや背中に手を回すことができず、日常生活にも困っている……
知人から紹介されたといって東京近郊から女性が来院。お困りの点を、お聞きすると……
3か月ほど前から肩が痛い、腕を持ち上げるときや背中に手を回そうとすると、痛くてできない。このほか膝や腰も痛いが、肩がいちばんつらい。日常生活にも影響をきたして困っている。接骨院で電気マッサージにかかったり、整形外科病院では注射と薬、リハビリ室で電気治療を受けたり、鍼灸院でハリ治療も受けたが、変化が見られない。どうにかしてほしい……
念のため例によって、過去の病歴も含めて経緯をお聞きすると、その、一見して気さくで明るい性格とは別に、なかなか大変なご苦労をこれまでに次々と重ねてこられてきたのがわかった……
- 20歳ぐらいの学生のとき、急性肺炎に。このときは入院までには至らず、自然治癒。その後、30、40代にかけて肺炎を3回患い、咳と熱で苦しんだ
- 50代初めに腎臓に結石の疑いがあり、病院で調べて膀胱腫瘍と診断され、乳脂肪塊除去手術を受ける。腎臓結石についてはその後うやむやに。それから地元で肺に効く気功を学び始め、もう15年ぐらいになる。それがよかったようで、その後に肺炎はなし
- その後、太極拳も始めて、月に数回定期的にやってきた。今は手がうまく使えず、困っている
- 膝痛は自分の太極拳のやり方が悪かったのだと思う。膝に負担をかけていたようで、それが徐々に積み重なってきたと思う。昨年辺りから、膝がつらくなってきた
- 体中がおかしくなる予兆、前兆は、3、4年前。右腰の一点に何か違和感を覚えたことがあり、それから体中に広がっていった気がする
- 腰痛は、子供を産んでからあった
- 1年前、いびきがすごくて、専門医で検査してもらったら、無呼吸症候群といわれた。マスクをつけて仰向けに寝る。ただ、つけると安眠できないので困る
- 血圧も高く、降圧剤を飲んで、136~85くらい
- 肩痛の原因について特に思い当たることはない。とくに左肩、左腕が上がらない。後ろに回せない。服の袖に手を通したり、両手を後ろに組むことができない。肩を横に上げると、上腕に痛みが出て、肘のほうまで来る。整形外科病院で診てもらったら、五十肩と言われた。石灰は溜まっていないが、関節の動きが悪い。3回ほど注射。あと痛み止めの薬。今朝も痛かった。横になるとき、朝起きるとき
- それから、肩痛の後すぐ後ぐらいに、右脇腹が痛くなってきた。ストレッチの体験教室があって参加し、講師の人に押してもらった。そのときにズキンときて、その日の夜には、咳をしても痛かった。グリグリしたものもあって痛んだ。今は少し落ち着いている
- 今一番気になるのは、肩。膝も気になるが…
- トイレも近い。腎臓が悪いのではと思っている。花粉症もあり
<見立て~施療>
背が縮み、体中に変調が……
立位になってもらい、姿勢をみる。頭部が左から右に回旋。頭がやや左に傾斜。右肩が上がり、左肩が下がる。左肩、やや前に出る(その後、本人から、家でテレビゲームにはまっており、結構長時間やることもある。テレビ画面が向かって右側にあり、体をひねってやっていると話があった)。本人は、背が2、3㎝ぐらい縮んできたような気がする、とのこと。さらにみると、両膝が内に屈曲し、内に付く形になっている
各関節の気のめぐりをみると、はほぼ全身にわたり変調が窺える
リストでの脈のチェックでは、肺大腸経絡+腎膀胱経絡の証。そこに、肝経絡の証も加わる
チャクラは、会陰に位置し生命力を支えるとされる#1のルートチャクラと、首の付け根に位置する#5の喉のチャクラ、眉間にあり将来への内心の不安とも関係するといわれる#6のチャクラに強い異常が窺え、臍の下に位置し情緒的バランス等に関わる#2のチャクラにも問題を抱えていることを示す
各関節の気のめぐりをみると、はほぼ全身にわたり変調が窺える
本人がいま一番気にしている肩については、腕を持ち上げるとき、背中に回すときに痛みが出る。ただ、首の動きにはあまり影響を受けないようなので、肩関節の問題と思われる
また、痛みが肩の外側で上腕上部、肘の辺りまでなので、この点からも肩関節の問題で、肘を伸ばせないことから、上腕三頭筋に問題が、また左肩がやや内旋していることから、三角筋後部繊維や棘下筋、小円筋のユルミが疑われる
腎臓の問題と強い関わり?
症状が多方面にわたることから、どこから着手すべきか判断に迷うところがあるが、FT(フィンガーテスト)では、後部上半身が影響部と出てくること、本人の予兆、前兆として3、4年前に腰の一点にすごく違和感を感じたとのコメントがあったことから、腎臓の問題が強く関わっているのではないかと想像される
試しに、立位の状態で右腰の圧痛部位から腰椎1~3番を軽く揉捻したところ、当初10度くらいまでしか上がらなかった左腕が、30度ぐらいまで上がるようになった。さらに、胸椎12番辺りの圧痛部位、右肩甲骨後部辺りの筋肉のハリをほぐしたところ、45度ぐらいまで上がるようになったことから、やはり上半身の問題が大きいとみて、伏臥位になってもらい、施療をスタート
血液の循環に問題?
脚は左脚が右脚に比べて動き重く、固い。骨盤は右に動揺。腸骨上辺の腰は左に動揺。下位肋骨部は右、肩峰部は左に。頸は細かく右、左と動揺
脊椎左辺の腸肋筋のハリが強い。左腰部に圧痛。左脇部にも圧痛。左腰部のほうが圧痛強く、左脇部に影響しているもよう
左脇肋部の筋肉のハリをほぐしていたところ、左腕の圧痛を訴える。それまで、両手肘を脇につけバンザイのような姿勢をしていたのだが、じっと同じ姿勢をするのはつらいとのこと。じっとしてつらいということは、どうやら、血液の循環に問題があるのかもしれない
体のあちこちに圧痛が……
仰臥位に変更。両鼠径部に圧痛。とくに右側が強い。腹部、右下肋部辺と左下肋部辺(やや上)に圧痛。とくに右側が強い。両脇部圧痛とくに右側が強い。鎖骨下の肺経絡のツボ中府、雲門も、ともに圧痛、とくに左側が強い
両手両足の気の流れを井穴(手と足の指先にある気、生命エネルギーが流れるツボ)でみると、両手両足ともほとんど変調が窺え、内気の流れが混乱状態にあることが裏付けられる
補瀉調整で気の乱れを整える
気の乱れを調えることが先決と判断し、左の眉頭にある膀胱系のツボ攅竹と、左の内踝にある腎経のツボ太谿の間で補瀉調整(気の過剰と過少をバランスさせる)。さらに、右の攅竹と、右足の第5指側にある膀胱経のツボ京骨の間でも同様に補瀉調整
すると、右膝に痛みが出る。右膝下にパッドを入れると痛みはとれるが、今度は右足の肝経のツボ太衝付近に圧痛が出る。また、右足と左足の脾経のツボ三陰交付近にも圧痛が出て、右側が強い。右太衝を瀉(過剰なエネルギーを取り去る)したところ、少し楽になる
しかし、今度は、左肩部がつらくなる。左肩下に補助パッドを入れ、少し上に挙げたところ、楽になる。この状態で両手両足の井穴を調べたところ、先に変調のあったのがひとまず正常化。ただし、腹部の圧痛と脇部の圧痛は右側にまだ残る。この辺りの部位でかつて何か問題がありましたかと聞くと、20歳頃急性肝炎を患ったことがあるとの話。あるいは、そうした過去の体験が体の奥底に残っており、体の不調や乱れに乗じて、その残滓をのぞかせているのか?
そこでさらにみていくと、鼠径部の肝経のツボ急脈から、腹部脇の同じく肝経のツボ章門、期門付近にかけて圧痛があり、右脇の胆経(肝経の姉妹経絡)のツボ淵液辺りに圧痛があることから、肝の経絡をチェックすると、右足の太衝から足首の中封、内踝の上の中都から膝の膝関、曲泉、さらに先にみた急脈から章門の間などに気の逆流箇所があり、これを手技で調整。加えて、腹部にあるモツレなどの変調箇所を水晶のシトリンを使って、やさしくほぐす。本人、ウトウト眠り始める
腕は45度ぐらいまで挙げられるようにはなったが……
その後、胸郭部ほぐし(肋間に痛みあり)、左肩上腕骨小結節、大結節部の圧痛、肩峰、三角筋粗面辺りの圧痛、鎖骨下の圧痛(左大胸筋・小胸筋ほぐし)と左肩後面肩甲骨部、棘下筋付着筋、小円筋付着筋をほぐしていく。その後、右腕を動かしてもらったところ、やはり45度ぐらいまでは動くようになる。ただ、先と比べて、動きは明らかに軽くスムーズになっており、本人も動きの軽さを実感してくれた
術後、姿勢がかなり良化。わりあい安定して立てている感じ。肩の上下もかなり是正。顔の色艶良くなり、膝の内側への屈曲もやはりある程度是正された。本人、体の動きが軽くなり、足の裏が地についているような気がする、とのこと。とはいえ、チャクラはひとまず正常化したものの、両肩から両腕、骨盤周り、両膝、両足首など関節の気の詰まりは依然として残っているなど、まだまだやるべきことは残されていた
<考察> 連鎖、伝搬する病い……
施療を終え、あとから振り返ってみると、腎経にもともと問題を抱えていたところに(50代初めに腎臓結石の疑い、膀胱腫瘍)、3、4年前、右腰の一点に違和感を覚えた。腰は腎経と密接な関係のある部位である。それが、本人が言うように、「体中がおかしくなる予兆、前兆」となったのは確かなようである
しかし、これも元をただせば、20代から30、40代の肺の問題からきていると思われる。というのも、東洋医学では、肺経は腎経のお母さん経絡であり、肺がおかしくなると、それが子の腎経に影響を与えるという。年齢を重ね、老いが身近に迫るとともに、肺の問題が腎に波及し、50代の腎臓結石云々の話につながっていった、ということなのかもしれない
幸い、地元で気功、太極拳を始められたことで、肺や腎臓の問題は影を潜めたかのようにみえたのだが、数年前に腰に違和感を覚え、それに加えて、2、3年前にテレビゲームでパソコン、マウスを長時間利用するようになったことで、さらなる問題を生む原因を形作った感がある。姿勢の悪化で体幹が歪み、そのことが、腕の挙上にも影響として出てきた、ということかもしれない
また、背が縮んできたというのは、膝が悪い(50代に気功、太極拳を始め、昨年よりかなり膝痛に)ことに加えて、膝が内側に屈曲が強まり、腰の位置が下がり、その分背が縮んできたという実感につながっているように思われる
1年前に、いびきがすごく無呼吸症候群と専門医から診断されたとのことだが、これも、両膝を内に入れると肩も内に入り、胸が塞がってくる。胸が塞がると、呼吸は当然にしにくくなる。さらに、テレビゲームのやりすぎでとくに左肩が前に出る、といったことがあると、さらに胸を圧迫する要因となる。胸が塞がり、圧迫されると、上体が固まってきて、腕も挙げにくくなる。こうした一連のことが、五十肩(本当は歳からいって七十肩というべきなのかもしれないが、お医者さんが病名としてあげた五十肩を表記上用いることにする)につながる一因となっている可能性はやはり高そうだ
五十肩との診断を受けた後すぐ、ストレッチの体験教室に参加して、その日のうちに右脇腹が痛くなってきた、というのも、けっして見過ごすことのできない事柄といえる。今回の施療で、右脇部をはじめ鼠径部から膝、足首、足にかけて肝経の気が逆流したり、関連のツボに圧痛が見られたが、実は、東洋医学では腎は肝のお母さん経絡であり、腎がおかしくなると、肝に悪影響を及ぼすとされるのである。本人は、20歳頃に急性肝炎を患ったことがある、と思い出したように話してくれたが、ここでも、肺→腎→肝というつながり、あるいは肺が肝を剋するという東洋医学的な見方を意識せざるを得ない。肝は心(経絡)のお母さん経絡であるから、下手をすると、さらに心経にも問題が連鎖、波及し、重篤な病に結びつく恐れさえもないとはいえないのである
体を切り離して考えるのではなく、全身的視点からのアプローチが必要
私たちは、ややもすると、肩は肩の、肺は肺の、腎臓は腎臓の、肝臓は肝臓の、筋肉は筋肉の問題、などと、それぞれを切り離して個別単独のものと考え、対応しようとしがちである。しかし、体は全体で一つなのである。あらゆるものは、別個に切り離して考えることはできない。全てはつながっている。そう思って、対応しなければいけないと思う
今回の施療では、腎膀胱経や肝経などの気の流れの調整と上体のほぐしが主となったが、これから先の施療では、今回踏み込めなかった下半身や後背部の調整についてはむろん、もっと全身的な観点からアプローチする必要がありそうである。そんなことを改めて痛感させられた
そして実際に、このあとの施療はほぼそのとおりになっていった。施療の効果がそれなりに上がり、身体の関節各部の気の流れや経絡の運行、チャクラの状態がひとまず正常の域に近づき、両腕も後ろ手で腰の高さまで挙げられるところまでにいくのに、あと5回の施療を要することとなったのである。その顛末(てんまつ)については、稿を改め、次回に紹介することとしたい