健康太一ミニコラム:2018年夏号2
今回は、歳をとるとなぜ腰が曲がるのか、というお話です。日々の健康づくりのなにかのお役に立てれば、大変幸いです
26 歳をとると、なぜ腰が曲がるの?
前回のコラムで「老化」について書いたところ、サークルメンバーの方から、ご質問をいただきました。
その方は、ひどい肩こりに悩まされていて、肩のほうばかりを気にされていたのですが、実は、肩こりは単なる症状であって、その症状を引き起こしている主な要因としては、むしろ上体をかがめた姿勢の悪さにあるのでは、とお伝えしたところ、「なぜ歳をとると、腰が曲がり、姿勢が悪くなるんですか」とのお問い合わせです。
その場では、時間が限られていたこともあり、ごく簡単に、歳をとると腎の気が衰えてきて、腰を支えるのが困難になるためであり、そうならないよう、日々体をよく動かし、気を養い、巡りを円滑にして、老化に負けないようにもっていかれることが大切だと思いますよ、というふうにだけお答えしました。せっかくのご質問ですから、このことについて、もう少し補足して説明しておきたいと思います。
昔の人も、老化を気にしていた!
『黄帝内経(こうていだいけい)』といえば、中国最古の医学書といわれ、東洋医学の考え方や養生法、施療法を学ぶバイブルとして、小生も五十代も半ばを過ぎ、気功整体学校に入学してから始めて接し、その後も多くのことを教えられ続けている古典です。
その黄帝内経は、中国古代の伝説上の帝王、黄帝と名医、岐伯(きはく)の問答形式で記されており、その冒頭、「上古天真論」の中に、次のような行(くだり)があります。
黄帝が岐伯に問います。大昔の人々は百歳を越えても衰えはしなかったと聞くが、今どきの人は五十歳ぐらいで皆衰えてしまう。これはいったいどうしたことなのか。
これに答えて岐伯は、大昔の人は養生の道、原理をよく心得ており、それに従って生きたから、それだけの寿命を全うできたのだ、と言います。
岐伯は続けて、男性でも女性でも、人は成長期、成熟期にあるときは、腎気が活発、順調に体を巡っており、その間は、元気で健康に暮らすことができるが、やがて歳が三十代後半から四十代以降の後年にかけて、腎気が衰え始めると、次第に顔がやつれはじめ、皴が寄り、毛が抜け、歯ががたつくようになってくると、指摘します。
東洋医学では、腎は、人の生命活動の源となる精気を蔵しており、必要に応じてそれを体の各臓腑に供給し、その健全な働きを維持する、という大切な働きをもつとします。その腎が衰えることにより、筋や骨など体幹を支える部分が弱くなり、四肢に力がなくなったり、腎の臓のある腰がだるくなったり、物忘れや難聴、視力低下など、全身がいわゆる老化現象を示すようになる、というのです。
諸機能の衰えが、首、肩のいっそうのコリを助長する
今回のケースでいえば、体の諸機能が老化により劣化することに加え、姿勢が悪化し、5、6キロあるといわれる頭がその重さから前に傾くことで、肺や胸、喉の働きにも悪い影響を与えるのみか、背中後面の肩、首、後頭部の筋肉が、重い頭を支えるために、さらに過緊張し、それが慢性化することで、首、肩周辺が異常に凝ってくる、ということも、容易に想像されるわけです。
老化のプロセスに打ち勝ち、天寿を全うするには
では、人はそうした老化のプロセスからまったく逃れられないのかというと、岐伯は、必ずしもそうではないと言います。大昔に百歳を越えて生きた人々と同じように、養生の道をよくわきまえ、天文暦数、自然の営みに通じてそれに調和し、飲食に節度を保ち、睡眠を規則正しくし、みだりに身を過労させることがなければ、また、無欲恬淡とし、心穏やかに過ごすなら、病気の元となる邪気にも侵されることなく、生命の泉である真気が体内を隈なく巡って、天寿を全うすることは可能、としたのです。
黄帝が口にした(昔の)「今どきの人」が五十歳で衰え、老化の途を辿るというのは、まさにそうした養生の道とはかけ離れ、酒をむやみと口にし、快楽にうつつを抜かし、道楽や過度の刺激に身をゆだね、心身の過労を重ね、自然と離れた生活を送ってしまうからである、と岐伯は言います。
現代人にとっても、まことに耳の痛い指摘ではありますが、でも、大変ありがたいことに、黄帝内経もそうですが、古代の人々は、養生の道がどうであるべきか、自然と調和して生きるために心得るべきは何なのか、気を養い、育て、正しく巡らせて、人が本来もつ天寿を全うするために為すべきことは何か、さらには病気の見分け方から対処法に至るまで、まさに人が生きるための智慧を、今に至るまで伝承し、現代人に遺し、伝えてくれているのです。
いまサークルでやっている気功や太極拳も然り、あるいはまた過日講習を受けた「五臓の音符」(体内に自己の声音を響かせ、五臓を健やかにする功法)にしてもそうですが、こうした古代から伝えられた智慧の恩恵があればこそ、こうして心身の健康づくりに役立つ活動や実習ができることに、感謝の気持ちでいっぱいです。たとえ歩みはのろく、覚束なくとも、これからも地道に、メンバーとともに養生の道を歩んでいくことができれば……と思ってやみません。
ちなみに、ご質問者の場合も、体を動かし、胸を開き、姿勢を正しく伸びやかにする軽い運動をするだけで、サークル終了時には「不思議に体が楽に、肩も軽くなった」と笑顔で仰っていました。
ただ、あえて申し上げれば、それは、残念ながら、多分一時的な回復にしか過ぎず、その効果を永続させるためには、やはり日々の無理のない運動、煉功が欠かせないのだと思います。