暑い夏に体のあちこちがツラい……

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暑い夏に体のあちこちがツラい画像

急に暑くなった数日前から、肩とか首、背中、胸の周りなどがツラくなってきた。心配なので、みてほしい……

<猛暑の中、体に異常が……>

該 当 者: 40代 女性
該当部位: 肩、首、背中など
訴  え: 急に暑くなった数日前から、肩とか首、背中、胸の周りなどがツラい……

<見立て~施療>

朝早く、早めにみてほしいとご連絡をいただき、午後一番にご来院

これまでにも東洋医学的処方を求められ何度も来られている方で、改めてお話を伺うと――

首、背中、胸の周りなどがツラくなってきたのは、ここ数日の猛暑が続く最中で、だんだん歩くのも大変になってきた。家ではクーラーも使用、水分補給などにも気をつけており、めまいや立ち眩み、こむら返り、あるいは頭痛、吐き気といった、いわゆる熱中症的な症状までは今のところ感じていないが、ツラさが段々増してきており心配だ。なんとかしようと体を動かすと、少しは楽になるが、すぐに疲れて、その後またツラくなる。早めになんとかして欲しい、という訴えである

夏の暑さで心の経絡が影響を受ける……

早速、立位でチェックすると、両肩、胸部、両脇、両肘、両手首、両膝、両足首、両跨など各関節部の気の流れに変調が窺える。首が多少前に傾いているのも気になる

リスト(手首)での経絡チェックでは、肺・大腸、腎・膀胱、心経絡に変調が窺われる。FT(フィンガー・テスト)で、どの経絡が主に影響を与えているのかを調べると、心経絡の影響が大きいと出る

両手の井穴(指先にあるツボ)では、両小指心経絡と四指三焦経絡、右大指肺経絡に変調がみられる

左手前腕に肌荒れがあり、かゆくなってきたと言う

補の施療……

そこで、腕の心経絡の気の流れを辿ると、左肘の心経のツボ少海に強めの変調が感じられることから、試しにここに補の調整(生命エネルギーの補填)を行なうと、本人が突然、アッ、目の奥のほうが軽く、楽になってきた感じがする、と言う。実は、目の奥のほうにもツラい感じがあり、どうしたのだろう、と思っていたのだとのこと

心経絡図

心経絡の流れ(『経絡十講』商務印書館より)

ちなみに、心経絡は、心臓より起こり、縦のラインは小腸から目の深部に達し、横のラインは肺から両腋窩中央を経て肘の小指側を経て指先に至る。まるで十字架のような縦、横の流れをもつ経絡である

肘の心経のツボを使って目の奥が楽になった、というのは、同じ心経絡上のラインつながりで、肘の箇所に気(生命エネルギー)の流れの不活性部分があり、それが補の調整である程度正常化されたことにより、心経の先にある目のほうにも好ましい影響が現れたものといえるのではないかと思われる

続けて、体の前後面の七つのチャクラをチェックしてみると、チャクラは正常に回転し、問題はみられなかった。事前にチャクラのチェックをしていなかったのでなんともいえないが、左肘少海への補の処置を継続していたことの効果が、やはりあったのかもしれない。リストの経絡チェックを再度したところ、先にあった変調も消えていた

胸郭部と背部の施療……

次に、本人がいちばん気にしていた胸郭部と背部の施療に移る。FTにより、背部から始めたほうがよいとの判断から、伏臥位で体の調整に入る

最初に、骨盤、腰、肩の左右への動揺をみると、比較的安定しているが、ただ、頸椎から仙尾骨にかけて順に脊柱を辿っていくと、胸椎の3番辺りから5、6番にかけて左側部のハリが強く、10番辺りからは腰椎下部にかけて小さく右に振れている

そこで、左脚を少し外へ振り、右脚を内に入れ込むようにすると、脊柱の右への振れが収まり、背中の上部左側のハリもやわらいでくる

さらに右の腸骨部辺の固さを調整していると、本人曰く、そういえば右顎辺りに痛みを感じていたのが、楽になってきたとのことであった

骨盤と頭蓋骨は脊椎の柱で連結されており、やじろべえのように、さまざまな変位に対してバランスをとろうとする。その意味では、腸骨周囲の変位が脊柱を通じて頸に伝わり、その周囲に位置する顎関節に影響を及ぼしても、体の構造上からは、決して不思議なことではないのかもしれない

背中、脚ほぐしの後、今度は、側臥位で、主に心経のラインを中心に腋窩から腕、手とほぐし。さらに、頸から後頭部にかけて、ていねいにほぐし

腹部にも変調が……

続けて、仰臥位に移る。仰臥位でみると、胸郭部が相当固く、動きに柔軟性が欠けるのと、腹部の脾と腎に相当する部位に変調が窺えるのが気になる。お腹の左季肋部から中心部を軽く触れるだけで、痛みを感じると言う。そこで、脾経の第一趾井穴の隠白ツボに補の調整をしたところ、少しやわらいできたとのこと

隠白への補の調整を続けながら、施療は、まず脚部を十分に伸展させ、柔軟性を高めることから始める。次いで、胸郭部を念入りにほぐし。そのあと、腹部を、シトリン(黄水晶)を使った非常に軽いタッチのほぐしで、ていねいに調整。そのうち、本人は居眠りを始める

そのあとで、顔面部から後頭部をほぐした後、後頭部で手当

顔の色艶、姿勢がよくなる……

術後、顔の色艶が明らかに良くなり、姿勢もスックと立てるようになる。本人によれば、とても体が楽で気持ちがいい、とのこと。試しに両手を頭上にあげてもらうと、軽やかにスッとあがり、今朝とは全然違うと喜んでおられた

術後のチェックでも、当初窺われた関節部位や経絡の変調は良化に転じ、左前腕に見られた肌荒れも少し落ち着き、改善がみられた

<考察> 夏は、心経絡の動向に注意を!

肩がはる、首がこる、背中、胸の周りがツラい、目の奥に違和感がある、顎も変、鳩尾の辺りが固い、前腕の肌荒れもひどくなってきた、歩くのも大変……

こんなことが立て続けにあると、いったいこれはどうしたんだろう! 我が身に何が起こったのか? と誰しも不安にかられるのは、無理からぬことだと思う

部分、部分にとらわれず、「全体的」にみていこう

でも、こんな体の異変に対し、東洋医学的な知識があると、そこにはまた別の判断、見方があることに、気づかれるかもしれない

その症状の現れた部位をみると、上述したように、主に上半身の「心」に関わる経絡部分に偏りがみられ、しかも季節は夏、暑い盛りである。東洋医学では、まさに心経の季節なのである

夏は、天からの熱気と地からの熱気を合わせ受け、東洋医学でいう陽気が最も盛んとなる時節である。心臓の働きや気血の流れも良くなり、体の調子のいい人はどんどん活発に動けるようになる。その結果、汗もいっぱいかいて、余分な熱は放出する

人間には、ホメオスタシス(恒常性)といって、体の内外の環境変化にかかわらず、生体の状態を一定に保つ性質があり、そうやって暑い夏も、よほど異常でない限り、健康に乗り切ることができるように、本来はなっている

しかし、体の調子が思わしくない人は、この盛んな陽気を適切に処理できず、体のあちこちに留めたり、過不足を生んだり、末端にまでうまく流すことができなかったりして、不健康を招きがちとなる

今回の事例の場合、ご本人は「なんとかしようと体を動かすと、少しは楽になるが、すぐに疲れて、その後またツラくなる」と仰っていたが、これはツラさの原因が骨や筋肉といった器質的な異常によるというよりは、むしろ代謝の悪さに起因することを示唆するものといえよう

立位でのチェックで、両肩、胸部、両脇、両肘、両手首、両膝、両足首、両跨など各関節部の気の流れに変調が窺えたのも、そうしたことの反映とみてよいだろう

だからこそ、ご本人は、体を動かして少し良くなったと感じたわけだが、問題は、なぜその後、疲れて、ツラくなったのか、である

実際のやり方までは聞かなかったので、いまとなれば想像するしかないが、一つには、多分、力を入れて、頑張って体を動かそうとしたのではないか、と思う

それでなくとも暑い夏、湿気の多い日本の夏では、体はじっとりと汗をかいており、汗をかくということは、それだけ体力を使い、消耗することにつながる。そのうえ、拙力といって、無駄に力んだ体の動かし方では、その分余計に筋肉のエネルギーを消費するから、その面からも体力の消耗につながってしまう。「すぐに疲れて…」というのは、多分、そんなことなのだろう

では、体を動かすのを止めて、じっとしていればいいかというと、それでは、やはり血流も滞りがちとなり、気血も体の隅々まで行きわたらず、代謝も促進されず、別の問題を引き起こしかねないことになる

まさに進むもならず退くもならずの、堂々巡りになってしまうが、こんなときは、いったいどうしたらいいのだろうか?

夏の暑さに負けないために……

結論から先にいうと、要はやり方次第であると思う。ニコニコ太一気功サークルでもやっていることなのだが、気血が流れる際の関所となりがちな体の各関節を力を抜いてていねいにほぐすとともに、例えば甩手といって、同じく脱力してただ手を前後に振るなどの、比較的手軽にできる気功的な運動が、お勧めできる一つの方法だと思う

なお、甩手については、以下の記事をご参照ください

⇒ 百病を癒す甩手!

とともに、重要なポイントとして、この夏の盛んな陽気を、体内でうまくバランスさせて、体の健康を保つという方法を取り入れることをお勧めしたい

どういうことかというと、上半身にある陽気を下げて、火の性質をもつ「心」と、下にあって水、寒の性質をもつ「腎」と交流させることである。そうすれば、下は冷えに悩まず、上も火が亢進せずして、過剰な熱に苦しまなくて済む。これを東洋医学では「心腎相交」といい、体を健康に保つ秘訣としている

この辺のことも、既に投稿済みなので、以下をご覧いただければと思う

⇒ 夏の暑さに負けない気功法

一番よくないのは、熱気を上に挙げ、下は冷えている、いわば「頭熱足寒」の状態にしてしまうこと。これは、「頭寒足熱」の真逆であり、健康上も大変よくないことになる

陽気は活動的で上昇しやすく温める性質をもつ。しかしそれが、スムーズに発汗、発散されず、頭にこもって内攻すると、のぼせなどの症状が現れることにもなる。首や肩がこっていると、体内に気がうまく循環せず、一層状況を悪化させることにもなりかねない

それを避けようと、クーラーの効いた部屋で過ごす、という方法もあるが、朝から晩まで暑い期間中ずっと閉じこもっているわけには当然いかず、炎天下の屋外に出かけることも結構あるだろう。暑い屋外との間を出たり入ったりしていれば、自律神経系や内分泌系に過度の負担をかけて、今度は体のホメオスタシスの働きを狂わしかねない

一例をあげれば、暑いところから急に寒いところに移ったりすれば、血管が収縮して血圧を一気に上げかねない、といった問題も起きかねないのである

また、暑いからと、冷たい飲み物や食べ物ばかり摂取していると、よく知られているように、体はぐったりしてしまう。これは、胃腸の働きが冷えや過剰な水分で弱り、十分な栄養を体に送ることが不十分になるためでもある

東洋医学的にいうと、この消化、吸収、体に運ぶ働きをするのは「脾」と「胃」の働きによるもので、場所(方位)的には「中央」、すなわち、お腹ということになる。「心」に加え、この「脾胃」に問題が及んでくると、体はさらに大きな問題を抱え込むことにもなりかねないので、注意する必要がある

今回の例でも、先述のように、脾経のラインにも少し問題が見受けられたが、大事に至ることのないよう、やはり早めの対応が必要である

なお、本事例のあと、間もなくして来院された20代の女性の場合は、まさに脾に影響が及んでいた例で、こちらについては、次の機会にでも述べることとしたい

⇒ えっ、20代なのに五十肩!?

話を戻して、夏には夏の季節的特徴がある。確かに夏は暑く、湿気が高いとムシムシし、過ごしにくいことこの上ないが、それでも夏という季節がもつ、体を伸びやかに、内臓の働きを活発にする効用は、この季節ならではのものである。夏の季節的特徴をよく弁えたうえで、害からは離れ、その良さを積極的に善用するようにして、日々の健康養生に役立てていくことが大切なのだろうと思う

もう一つ、今回改めて再確認したのは、東洋医学の“良さ”である。東洋医学では、症状のパーツ、パーツをみて、対応するというよりは、「全体」をみようとする。体をひとつながりのものとして、そこに何が起きているかをみようとする。それも、まさに陰陽というエネルギーの消長から始まって、四季の巡り、時節の体や心への影響と、大きく俯瞰的に捉え、そのなかで今の困り事をどうすべきかを見極める。と同時に、その時節時節に応じた健康養生法のポイントまで指し示してくれる。その智慧のありがたさに、いつものことながら、感謝したいと思うのである