胸の奥の鈍痛で横になって眠れない!

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事例4の続編。小康を得たのも束の間、今度は胸の奥に鈍痛が。横になって眠れないという不調の原因を辿っていくと、足趾、手から腹部へ……

<仕事に復帰したものの今度は眠れない事態に……>

該 当 者: 50代 女性(事例4と同)
該当部位: 胸の奥の鈍痛、高血圧、肩・腰痛
訴  え: 前回の施療のあと、少し楽になって仕事にも復帰したのだが、今度は胸の奥に鈍痛がするようになり、夜も横になっては寝られず、立って少し眠るのがやっと。お医者さんに診てもらったが、レントゲンには異常はなく、高血圧の薬を一つ増やしてくれただけだった。早く、なんとかしてほしい

<見立て~施療>

お話を伺うと、会社に出ると、やはりあれこれ精神的にイライラすることが結構ある。すると血圧が上がり、背中もまた痛くなってきた。それが今は胸に来て、大変つらくてたまらないとのこと。参考までに、血圧値を聞くと、高いときは上が185で、下が110。薬を増やして、146から87だという。前回同様、すぐにやってほしい、と懇請され、早速、施療を開始

仰臥位でみると、鎖骨、第一肋骨が足方に動揺、胸骨も足方に動き、軽く触れると圧痛がある。腹直筋に3か所、恥骨にかけてコワバリ

伏臥位では、頚椎から背中にかけてユルミ。大殿筋、大腿ユルミ。左右の腰部脊柱起立筋は右側が影響部。大腿二頭筋コワバリ。右大腿二頭筋コワバリ、半腱半膜様筋は鵞足にかけてユルミ。下腿内側コワバリ。足裏はユルミ。さらにみていくと、足の第一趾、肝経の大敦で、上記の変調がとれることがわかり、肢位をかえても同じなので、仰臥位にて、ここを施療ポイントとして微刺激を20分ほど加えたところ、先ほどの胸骨の圧痛は消えたものの、まだ胸の肺経の部位辺りに苦しさが残るとのこと

肺経の第一指少商をチェックすると、左手には問題がなく、右手にユルミ。そこで、ここを第二の施療ポイントとして微刺激。当てている指に冷感が上ってくる。本人はやがてイビキをかいて眠り始めた。時々、母指がぴくっと動いていたが、そのうちそれも収まり、どこかでスッと抜けた感覚あり。目を覚ましたあと、本人に聞くと、少し楽になった、これなら眠れるかもしれないという

その後、10日後に再来院。一週間ほどはよかったが、2、3日前から今度は肩が痛いとの話。本人の弁では、部下とのことで悩みを抱えている様子

伏臥位でみると、体の左右への動揺はないものの、両腸骨が頭方へ動揺。左腰部、左肩甲骨内側にコワバリ。頚椎は左に動揺。右肩背部にユルミがあり、ここで上記の変調がとれる。さらに辿ると、右手首小指側の小腸経腕骨に冷えとユルミ

仰臥位で鎖骨をみると、右部が内へ動揺。胸骨は頭方へ動揺。右下肋部にハリ。その足方の腹部にユルミ。この部位と右手小指の腕骨を比べると、右手首が影響部。そこで、ここを施療ポイントとして指をあてるだけの微刺激。15分ほどして右下肋部のハリと腹部のユルミがある程度解消。立位でみると、肩の緊張もかなり取れている様子

実は、今回施療部位とした腕骨は、小腸経の原穴(臓腑と関係し、自然治癒力を高めるとされる経脈を代表するツボ)であり、肩甲部及び精神科疾患の施療ポイントとしても用いられる。交通事故後の肩部の後遺症という面のほか、やはり精神的ストレスの大きさも、本人が自覚するように、無視できないものがあるのかもしれない。この方は大変に優秀な人で、成績もトップクラスという。会社の期待に過度に応えようとしすぎなのかもしれない

さらに8日後、今度は、左の肩と腰が気になるので、これをなんとかしてほしいといわれて、来院

伏臥位でみると、最初、骨盤、上体とも右へ動揺していたが、頚椎に軽く触れたところ、骨盤は左へ動揺。どうやら、頚椎の問題が上体や下半身(骨盤)を左右しているらしい。頚椎自体は、骨毎に左、右と動揺が細かく見られ、微妙にバランスをとっている模様。この頚椎の動揺は、左肩のコワバリが影響しており、ここを弛めると、頸、肩、腰の緊張がとれる。さらに、左肩のコワバリを辿ると、結局、左手小指の小腸経腕骨に行きつく。指を当てているとすぐに拍動がきたので、ここを施療ポイントとして10分ほど微刺激

その結果、体のラインはしっかりしてきたが、右の腸骨の頭方に圧痛が残るという。前回、右手の同じ部位(腕骨)を微刺激した経緯から、腹部の内臓に問題があるかもしれないと推察し、そのことを告げて仰臥位でさらにみようとすると、本人は少々びっくりした様子で、実は、昔、胆のうの摘出手術をしたことがあり、そのときのことをいま思い出して怖いという

そこで、穏やかな効果を期待して、本人の了解のもとに、とくに冷えの強い右側の腹部から掌を軽く浮かせ手当療法をすることに。その結果、10分後ぐらいに、左足が温かくなり、左肘に何かピリッとくるのを感じたとの由。結局、胆のう側の右腹部の問題をカバーすべく左体側が頑張っており、左肘のその反応は小腸経の経絡(小海)に当たるものだろうと伝える

術後、右腸骨の圧痛が消え、体もかなり楽になったとのことであった

<考察> 問題が片付くとまた問題が。それは時間を遡って現われるものなのかもしれない

前回の事例と今回の事例を合わせてみると、不調と感じられた箇所は、肩甲骨内側から交通事故のあった肩へ移り、結局は、右腹部の昔の問題にまで行きつくことになった。人は体のトラブルや問題を抱えると、それをその都度、体の他の部分で補い、それなりにバランスをとりながら生を営もうとする。そう、場合によっては、まるで危うい積み木細工のように。そして、問題が起きるときは、まず弱い箇所に現われる傾向がある。その問題を解決すると、その前の問題が顔を覗かせてくる。一つ問題が片付いたことで、またバランスの再編成を迫られ、その解決が求められる。こうして、それまでなんとはなしに、あるいはどうにかやり過ごしてきた問題(ときには本人も忘れてしまっているようなこと)を順次解決していって、完全な整体を取り戻そうとするものなのかもしれない。本事例に限らず、そういうことがあることを今回も考えさせられた。大事に至らないためには、やはり日常的に運動もし、精神の安定を図り、こまめに自ら身心をケアして、未病を治すという心構えが大切になるのかもしれない