螺旋の動きで体を柔らかくする八卦柔身功

螺旋の動きで体を柔らかくする八卦柔身功

八卦柔身功画像

八卦柔身功――それは、円、螺旋、ひねりといった龍のような動きで体を柔らかくする功法だった……

体を柔らかくする功法について、引き続き取り上げてみたい。

前回取り上げた三骨軽打法では、独特の動きで、頸骨、仙骨、腸骨の三骨を叩き、それによって、人の脳神経、脊髄神経、仙骨神経叢に心地よい刺激を与え、体を柔らかくする。そうした点に大きな特色があるように思う。

⇒ タイチ・トピックス: 体を中心から活性化し、元気にする三骨軽打法
⇒ You Tube: 三骨軽打法をやってみました!

あの西太后も熱心に取り組んだ八卦柔身功

今回紹介する「八卦柔身功龍行八式」は、それとは趣きを異にして、螺旋の動きで体を柔らかくする、という点に、大きな特色があるように思われる。

この「八卦柔身功龍行八式」をおまとめになった李増雲老師によれば、この功法は、もともと、中国の清朝時代に、董海川という伝説の武術家が創始した、八卦掌に由来し、清朝宮廷内の八卦掌門下で、熱心に学習、習得されていたもののようだ。

西太后というと、その同じ清朝末期の宮廷、紫禁城にあって、幼少の皇帝に代って政治を取り仕切り、半世紀にもわたり隠然たる権勢を誇った人物である。その西太后が、そうした”垂簾聴政”の激務からくる極度の疲労、ストレスを解消、快復するのに、比較的学びやすいこの功法を、至宝、無上のものとして、珍重したのだという。

この辺は、You Tubeにアップした動画で説明を加えているとおりである。

⇒ You Tube: 八卦柔身功をやってみました!

龍の如き動きを体現

これも動画で説明しているが、この功法の元となった八卦掌は、八卦という易学理論に則り、円、螺旋、ひねりといった、独特な動きをする武術といわれている。

つまり、この功法は、名称に「龍行」という言葉があるように、水中や地中に棲み、天空へと自在に飛翔する龍の如き、円、螺旋、ひねりといった動きを体現しながら、体を柔軟にしていくものといってよさそうだ。

ちなみに、この功法は、左右同形の七式と最後の一式の計八式から成っている。

具体的に式名を見ると……

1 青龍返首  2 二龍吸水
3 青龍探爪  4 推山入海
5 双龍盤柱  6 游龍戯鳳
7 鳥龍揺尾  8 二龍挿雲

と、龍に関係する言葉がずらりと並んでいる。

この辺からも、この功法が意図しているところが窺えよう。

金龍イラスト

螺旋に動く龍(ivoermejo作)

なぜ螺旋なのか?

さて、では、なぜ円、螺旋、ひねりといった龍の動きなのか、だが、これについて思い浮かぶのが、陳式心意混元太極拳の創始者、馮志強老師が記された言葉である。

老師によれば(以下は、『馮志強真伝 陳式心意混元太極拳』馮志強著、ベースボールマガジン社より。老師は大切なことをいっぱい山ほど仰られているのだが、ここでは螺旋纏糸運動についての要点を一部分のみ抜粋)、

  • 螺旋纏糸運動(糸をぐるぐると巻きつけるような螺旋運動)は陳式太極拳独特の運動方法である
  • 太極拳の螺旋纏糸運動は、天体万物がとどまることなく循環運動を続けるという自然の法則にも合致している
  • 物体の運動は螺旋纏糸の循環運動と切り離しては存在できない
  • 太極拳の螺旋纏糸運動はまた養生保健の道にも合致している
  • 纏糸、螺旋の運動をすることによって、気血の流れを順調にして全身を潤い養い、三焦(内臓全部)を整え、陰陽のバランスがとれるようにする。五臓を壮健にして、関節、腱、靭帯を柔らかくなめらかにし、筋肉骨格を頑丈にする
  • 太極拳の鍛錬にあたっては、まず第一に全身に纏糸が備わらなければならない。これは、全身上下内外左右どこをとっても螺旋運動をしないところはない、ということである
  • 心神意念(心―精神―意識)のみちびきのもとに、内気が丹田から出て、三節(腕、躯幹、脚)を通り、九窮(三節に各3つあるツボ)を貫いて十八球(十八の関節部位=両肩、両肘、両手首、両胯、両膝、両踝、両臀、首、胸、腰、腹)を纏繞し、骨髄に入って関節から出、筋肉皮膚を満たして再び丹田に帰るようにする。とどまることのない纏繞、終わりのない循環を、功(鍛錬)を重ね、日を重ねていくことによって、剛柔兼ね備えた纏糸勁が自然と形成されていく

とのことである。

最初にこうした言葉を目にしたとき、その内容の奥深さと濃密さにただただ驚き入ったものである。正直、内容も十分に理解できたわけではない。

ただ、螺旋纏糸運動が大切だということについてはわかったので、2011年の春頃からはニコニコ太一気功サークルのカリキュラムの一部に取り入れ、メンバー一同、練習をそれなりに重ねてきた。

やってみて、気づかされたこと

それはそれでよかったし、今後も続けたいと思っているのだが、しかし、今回、たまたまこの八卦柔身功を体験したことで、いまやっているやり方には、どうもまだ不十分な点がありそうなことに気づかされた。

それは、You Tubeの動画でも少し触れたように、ただ、回すだけではダメで、いっぱいいっぱいに、大きく回す。それも引き伸ばすように回す、ひねる、そういうことをもっともっとやっていったほうがいいのではないか、と思い至った。

回すと確かに関節などはゆるんでくるが、それを引き伸ばすようにするという視点がたぶん大切で、それも力を入れて頑張りリキんでするのではなく、意識や体幹を上手に操作したりして、力を抜いてすることが大事なのだと思う。

そうすれば、関節なども本来ある可動域が十分に広がり、気(生命エネルギー)も細かな末端にまで及んで、体の柔軟性が格段に上がっていくのではなかろうか。

全身を、力を抜いて、大きく動かす

体を小さく動かしているときはあまり気づかなかったことが、大きく動かすことで、やはり見えてくるものがある。これは、整体などをしていても実際に感じることであるが、関節各部で動きの悪いところがあるのが、実は全身のつながりの悪さから、うまく動かせない、ということもある。

とくに、馮志強老師が仰る三節つまり腕、躯幹、脚の、つなぎの部分などは、全身運動で大きく動かす中で、そのつながりの悪さなどがやはり自覚もされ、見えてくるところがある。

回す、ということでいえば、腕や脚などはまだ動かしやすいといえるが、体幹(躯幹)となると、30ほどの脊椎が積み重なって体の中心軸を形成する脊柱がデンとあって、なかなかそうもいかないところがある。そういうところも、全身のつながりの中で、協調して動かせなければ、やはり柔かでしなやかな動きは導きだされないことになるだろう。

脊柱の詰まりをなくす

しかも脊柱は、先の「体を中心から活性化し、元気にする三骨軽打法」の中でも触れたように、背柱の中を中枢神経である脊髄が通り、脳と連絡するとともに、その脳と脊髄からは末梢神経が枝分かれして出て全身に分布し、人の生命機能を統括しているのだから、この部分の詰まりをなくし、しなやかな動きを生み出すことは、大変に大切なことだといえる。

この背柱を上手に動かし、活性化する方法としては、ありがたいことに、古来より様々な功法が伝えられてきている。

たとえば、易筋経。易筋経では、脊柱の回転屈伸運動が、主要な動きのベースになっているし、かつてサークル活動でもやったことのある八段錦の調理脾胃須単拳や五労七傷往後瞧、揺頭擺尾去心火、両手攀足固腎腰などの各式も、そういう要素があることに気づく。

健身気功易筋経

脊柱の回転屈伸運動が、主要な動きのベースに

健身気功八段錦

脊柱を活性化する古代からの知恵が凝縮

八卦柔身功では、どうやら、体を螺旋に動かすなかで、同様のことをやろうとしているように思えるのである。

楽しみながら、しなやかな体づくりを

と、まあ、思いつくまま、いろいろ感想めいたことを書いてきたが、八卦柔身功そのものについては、なにしろまだ始めて1か月ほどしか経過していない段階である。動作のあらましをどうにかつかんだ状態で、あまりあれこれ言うのも憚られる。今後は、さらに練習を重ね、体の中をよく観ながら、自ら体感し、考察らしきものを少しでも深めていけたら、と希望している。

You Tubeの動画で、冒頭にあえて「練習記録01」と記したのは、引き続きそうしたことを追いかけてみたいという気持ちの表れであるが、果たして、どうなることか? 歳も歳であるから、あまり焦ることなく、楽しみながら、しなやかな体づくりができていければいいなあ…、ひいてはそれが少しでも、目指している健康づくりのお役に立てればいいなあ…、と思っているところである。